「物件」との出会いが移転の決め手
だが、意外なことに山本敦之店主は、移転時に街の将来性を見込んでいたわけではなかったという。
「移転先の理由は特にありません。自家製麺ができそうな所を数年間探していて、ようやくちょうど良い大きさの店舗が見つかった感じです。強いて言うなら通勤しやすかったくらいですかね。あとは路地裏っていうのが決め手でした」
現在の「金色不如帰」は、自家製麺や複雑な食材使いによって完成する一杯が特徴だ。そのためには広い厨房やストックスペースが必要だった。
「集客や家賃に関してはものすごく不安でしたけどね。どうしても自家製麺をやりたかったのと、いろいろやるための食材をストックしておけるスペースが欲しかったんです」
つまり新宿御苑前を選んだ最大の理由は、「街」ではなく「物件」だったのである。
しかし結果的に、この移転が新宿御苑前のラーメン地図を書き換えることになった。
全国からラーメン好きが集まり、海外からの観光客も訪れるようになる。これまで新宿御苑前に足を運んだことのなかった層が、「ラーメンを食べるために」この街へ来るようになったのだ。
そしてもう一つ、新宿御苑前を語るうえで欠かせない存在がある。
京都ラーメンの老舗「本家 第一旭」だ。
京都駅近くの本店は70年以上の歴史を持つ超有名店。その東京初進出先として選ばれたのが新宿御苑前だった。18年12月、「金色不如帰」の移転から半年後のことだった。店主の清水勇吾さんは当時をこう振り返る。
「もともとは新宿、渋谷、池袋みたいな大きい駅の近くで探していました」
東京進出なら誰もが思い描くような一等地を候補にしていたという。しかし、そこには懸念もあった。
「『第一旭』がいきなり大きいところで箱を出して、お客様が来すぎて回らなくなるのも嫌だなと思い、少し離れた場所で探していました」
そんな中で出会ったのが新宿御苑前だった。
「たまたまラーメン屋の居抜きが御苑にあったのと、東京の知り合いが『御苑はいいよ』と勧めてくれたのでここにしました」
