このように、打ち手そのものの議論に入る前に、定数(期待する成果と現状認識)を丁寧に揃え直す。これが、部下を萎縮させずにレベルを引き上げる、一流のフィードバックの核心です。
そして実は、ここが、AIには容易に代替できない領域でもあります。打ち手単体の良し悪しを評価するだけなら、いまやAIにもできる。けれど、この組織のゴールと現状という定数を握り、部下の思考回路に分け入ってズレの在り処を一緒に探れるのは、現場の文脈を背負った上司だけなのです。
「良いたたき台」を伸ばすフィードバック
定数が揃い、部下が複数の打ち手を出してきたとします(レベル3の「良いたたき台」)。
ここで上司がやりがちな失敗が、「A案のデメリットを潰してこい」という指示です。ビジネスにノーリスクの選択肢などなく、デメリット潰しに走ると、最後は無難で効果の薄い案に着地してしまいます。
評価の軸は、メリット・デメリットではなく「リスクとリターン」です。
こう問うことで、部下は 「意思決定の物差し」を体で覚えていきます。
③が「ひとつの打ち手をどう評価するか」だとすれば、④は「複数の打ち手から、どう選ぶか」です。良い案が複数そろい、部下が決めあぐねていたり、会議で意見が割れたりしたら——上司の出番は、判断の優先順位を「示す」ことです。
ここで注意したいのは、この優先順位は、本来、部下が決める話ではないということ。
「効果の大きさか、実行のしやすさか」
「短期の売上か、中長期の基盤づくりか」
どちらを優先するかは、会社の戦略から導かれる、いわばもう一つの 「定数」 です。
上司が握っておくべきものを「君はどっちがいいと思う?」と委ねてしまうのは、②で見た「定数を伝えない」のと同じ過ちになります。
だから、ここは疑問形ではなく、言い切りで。
と、軸そのものを上司が固定する。
そのうえで、「この軸なら、どの案が一番効くと思う?」と、軸に沿った選択のほうは部下に考えさせる。
決めるべき軸(定数)は上司が示し、その軸のもとで打ち手(変数)を部下が解く。この役割分担が、部下の判断力を正しく鍛えます。
