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ソウルフードはマイタケ(秋田県)
関西で育った私にとって、マイタケはあまりなじみがないキノコだった。1999(平成11)年秋に東京へ移り住むと、スーパーに普通に並んでいるので「何に使うのかな」と思っていたほどだ。当時はきりたんぽ鍋ぐらいしか思いつかなかった。
東京は関西と比べて東北地方に近いせいか、鍋ものシーズンには店頭できりたんぽを見かけることもあったが、マイタケは年中ある。当時よく一緒に仕事をした編集者が宮城県仙台市出身の東北人だったので、「マイタケって何に使うんですか?」と聞くと、「え! 何にでも使えるよ」と答える。何にでもって何?
やはり東京に来て間もない頃、夫の誕生日ディナーで11月に無国籍料理店の「KIHACHI」へ行くと、「本日のおすすめです」と人の頭ほどもありそうなマイタケを見せられた。マイタケ料理を選ぶと、予算をはるかにオーバーするので断ったが、せめてどんな料理にするのか聞けばよかった。
秋田県では、串にご飯を巻きつける、手間がかかるきりたんぽも鍋にするが、日常的にはご飯をすり鉢などで搗(つ)いて丸める「だまこ」を使っただまこ鍋をつくるほうが多いそう。
しかし、他の材料は同じで、農水省のウェブサイト内の「うちの郷土料理」によると、マイタケ、セリ、ゴボウ、長ネギ、糸こんにゃく、鶏肉などが一般的。以前、「秘密のケンミンSHOW極」では、だまこ鍋を「これ以外の材料は使わない」と紹介していた。鍋ものと言えば想像しがちな、白菜や豆腐を入れると味がぼやけるそうだ。
秋田では鍋料理以外の何にマイタケが使われてきたのだろう、と思って『日本の食生活全集⑤聞き書 秋田の食事』を開いたところ、まともにマイタケが登場する地域は、紹介されている7つの地域のうち1カ所しかない。
それは田沢湖町で、年中キノコを食べていたのだそうだ。「きのこ汁」にするほか、長い冬に備えて乾物や塩漬けなどの保存食に加工する。30種類ものキノコの中でマイタケは「まえだけ」と呼ばれ、「最高のきのこ、白葉と黒葉あり。(用途は)だまこもち、きりたんぽ、吸いもの」と紹介されている。
現在、合併により仙北市田沢となった田沢湖町は、秋田県の東部中央、奥羽山脈を挟んで岩手県に接するところにある。田沢湖は日本一深い湖で、ほとりに立つ金色の「たつこ像」が有名。この舟越保武の作品は、美貌と若さを永遠に保ちたいと望んだ娘が龍になってしまった伝説をもとにつくられた。
出張のついでに訪れたことがあるが、コバルトブルーの湖面に映えていた。像ができて初めて、娘は永遠の美しさを獲得したのではないだろうか。
関西出身の私がマイタケになじみがなかったのは、天然マイタケが北海道や東北の深山で、ミズナラなどの老木の根元に生えるからである。しかも幻のキノコとされていたから、その地域の外に出ることはあまりなかったのではないか。
栽培室をつくって日々温度や湿度を調整しながら生育状況を観察し、人工栽培法を確立したのは「雪国まいたけ」の創業者の大平喜信さんで、1983(昭和58)年のことだった。
ユキグニファクトリーと名前を変えた雪国まいたけの創業の地は、新潟県である。農水省の統計によると、2022(令和4)年のマイタケの生産量は新潟県がトップで6割を超えるシェアで、秋田県は10位にすら入っていない。「マイタケ=秋田」というイメージは、きりたんぽ鍋・だまこ鍋という名物があるおかげなのだ。
