そんな不安定な私たちが、転ばずに歩くことを可能にしているのが、重心を安定させ、姿勢を保つ力――すなわち「バランス能力」です。バランス能力とは、単一の力ではありません。いくつもの機能が連携して働くことで成り立つ、総合的な能力です。
その土台になっているのが、「平衡機能」と呼ばれるものです。平衡機能とは、体が前後左右など一方に偏らず、安定した状態を保つ機能のことです。この平衡機能を支えているのが、次の3つの感覚です。
▶前庭覚(ぜんていかく)…耳の奥にある三半規管の働きで、体の傾きや動きを感知し、頭の位置を安定させる
▶体性感覚…関節の動き、筋肉の張り、足裏の接地感など、体の内部や皮膚から脳に送られる情報で姿勢を調整する
バランス能力を構成しているのは、平衡機能だけではありません。そこに、筋力・姿勢・関節の動く範囲(可動域)・反応の速さ(反射神経)・判断力や注意力などの認知機能も加わります。私たちは普段、これらを意識することなく使っていますが、実は常にフル稼働して、体のバランスを保っているのです。
問題は、これらの多くが、加齢とともに少しずつ、確実に失われていくという点です。特に65歳以降で顕著に低下していくことがわかっています。これが、「老化による転倒」の主な原因のひとつ、バランス力の低下の正体です。
「最近つまずきやすくなった」「何もないところでよろける」と感じるのは、決して気のせいではありません。体の中で起きている自然な変化の結果なのです。
ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない
中高年以上の方々の趣味として、散歩・散策・ウォーキングはとても人気があります。毎日欠かさず歩いているという方も多く、
「歩いているから、足腰は大丈夫」
「転んだり寝たきりになったりしない体を維持できているはず」
そう考えている人も少なくないでしょう。ですが、残念ながらそうではありません。結論から言うと――「歩くこと」だけでは、転倒、それに伴う寝たきり予防にはほとんど役立ちません。
