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東京都世田谷区。小田急線・千歳船橋駅で降り、閑静な住宅街を20分ほど歩くと、親子連れで賑わう大きな公園が見えてくる。その公園の目の前に、黒を基調としたシックな3階建ての建物がある。開放的な掃き出し窓と洗練された外観は、まるでホテルかカフェのようだ。
実はこの建物、重度心身障害者や医療的ケアが必要な人でも単身で入居できるシェアハウスである。1棟目の「シェアハウスIDEAL 上祖師谷」がオープンしたのは2022年の8月。2024年の5月には、2棟目の「IDEAL 千歳船橋」もオープンした。
建築費は1棟あたり数億円。家賃は月9万円〜12万円。1棟あたりの定員は7名で、現在は2棟で計10名以上が暮らす。入居者の年齢は20代〜90代、脳性麻痺、難病、気管切開・胃ろう、高次脳機能障害、重い自閉症など障害種別は様々だ。
驚くのはその経済性だ。家族の経済的支援がなくても、家賃に管理費・光熱費・食費を加えた月の生活費は、入居者本人の障害年金と各種給付金だけでまかなえるという。
しかも、このシェアハウスは福祉施設ではない。そのため、国や自治体からの補助金は一切ない。それでも経営は成り立っている。
運営するのは、訪問介護事業を営む株式会社HABING。代表の熊谷勇太さん(43)は、IDEALをこう表現する。
「言ってみれば、私が大きな家を建てて、みんな一緒に住んでるだけなんです」
なぜ、補助金ゼロの“家”が、誰も解決できなかった重度障害者の「親なきあと」問題の答えになり得るのか。
重度心身障害児の娘を持つ筆者にとっても切実な問題だが、福祉制度や経済の問題が複雑に絡み合うこのテーマに、根本的な解決を試みる人はこれまでなかなか現れなかった。
その難題に、熊谷さんは「大きな自分の家をつくって居住の場を提供する」という前代未聞の方法で挑んだ。
重度障害児の親が抱える「親なきあと」の不安
「自分が亡くなったあとも、我が子は幸せに生きていってくれるのか」
子を持つ親なら、誰もが気になることではないだろうか。
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【シェアハウス「IDEAL 千歳船橋」の内部】
