答えより発想の豊かさ重視、本当は面白い「小学校受験」
「宇宙人を泣きやませるならどうする?」「あなたが虫になるなら、どの虫がいい?」……
もしあなたがこんな質問をされたら、どう答えますか?考えたこともないシチュエーションに、少し戸惑うかもしれませんが、想像力が刺激される質問でワクワクしませんか。実は、これらはすべて小学校受験の試験問題なのです。

コノユメ代表取締役
東京大学卒業後、大手通信会社勤務。その後、自身の母親が30年続けている受験絵画教室のメソッドを生かし、2011年小学校受験専門幼児教室設立。小規模教室ながら、慶應義塾幼稚舎42名、早稲田実業学校初等部39名、慶應義塾横浜初等部46名(2022年度実績)など、難関校に多数合格者を輩出。 2022年5月に株式会社コノユメを設立。苦しい子育てをクリエイティブでエキサイティングな子育てに変えるべく奮闘中。自身も2児の母
(写真は本人提供)
小学校受験と聞くと、「小さな子どもが勉強ばかりさせられてかわいそう」というイメージを持つ方もいるかもしれません。確かに、やり方を誤ると、子どもが学習に対して消極的になったり、親子関係がぎくしゃくしてしまったりすることもあります。
しかし、本来の小学校受験は、単なる知識の詰め込みではなく、子どもの心や体、発想力、協調性、表現力などを総合的に育む機会なのです。
そもそも小学校受験とは、入学後にその学校で適応できるかをみるための試験です。中学受験や高校受験、大学受験とは異なり、ペーパーテストだけでなく、絵画・工作、生活、巧緻性、体操、行動観察、面接など、さまざまな観点から評価されます。
また、単に「できるかどうか」だけでなく、「どのように取り組むか」「どんな考え方をするか」「実施後、次に向けて改善点は何か」といった姿勢や思考プロセスも問われます。つまり、答えそのものよりも、考え抜く力や伝え方、発想の豊かさが重視されるのです。
小学校受験は、本当は面白いのです。
2024年度入試の志願倍率ランキング、人気校の傾向は?
近年、「体験学習」を重視する学校が注目を集めています。

例えば、人気校のひとつである東京農業大学稲花小学校では、「稲花タイム」と呼ばれる体験型の授業が行われています。この時間には、「食と農」の博物館など農大の施設を活用したり、農大の教授が直接指導にあたることもあります。
また、給食の時間にも学びの工夫が凝らされています。日本の都道府県や世界の国々をテーマにした特別なメニューの日があり、子どもたちは食を通じて、それぞれの文化や地域の特色を自然に学ぶことができます。このように、日常の中に豊かな学びの機会がちりばめられているのです。
早稲田実業学校初等部:自然発見という授業があり、身近な生活の中からの気づきを発表し意見交換したりする
慶應義塾横浜初等部:「生き方科」という授業で、教科を横断した学びを重視。自然体験や家庭での暮らしを見つめる活動から始まり、社会の仕組みや課題を考える力を育成する
桐朋小学校:総合活動に力を入れており、育てて食べる食育や、「まとめの会」と呼ばれる表現活動が盛ん
また、トップ10には、東京農業大学をはじめ、慶應、早稲田、学習院、青山など大学までの一貫校が多く名を連ねています。中学受験の過熱や大学入試改革の影響もあり、「小学校受験をするのであればせっかくなら大学まで行ける学校に」という親の気持ちが色濃く反映されています。
一方で、実は「倍率」という観点では上位3校は「出願のしやすさ」も大きく影響しています。
都内の小学校受験では、毎年11月1日からの1週間に多くの学校の試験が集中します。例えば人気の慶應義塾幼稚舎は、例年11月1日から女子早生まれの試験が始まり、2025年度試験(2024年実施)においては11月1日~3日が女子、11月5日~8日が男子でした。
1日程で試験が行われる学校も、集合時間が複数あり、午前の早い時間であれば、そのあと別の学校も受けられますが、昼頃の集合時間だと同じ日に併願はできないということになります。
そのような中で、倍率4位の稲花小学校は、例年11月1日から4日までの間で希望する受験日を選べる仕組みとなっており、非常に受験しやすい学校です。また、慶應義塾横浜初等部の試験は、11月10日ごろに実施されるため、他の多くの学校と試験日が重ならず、併願しやすいのです。
さらに、東洋英和女学院小学部の試験日は例年11月2日(2026年度は11月2日が日曜日のため、試験日は11月3日に繰り下げとみられる)ですが、雙葉・白百合・聖心といった他の女子校の試験が例年11月1日に行われるため(雙葉は11月1日と2・3日のどちらか)、女子校を志望する家庭が集中しやすいという側面もあります。
小学校受験では、試験日程の決定に影響する生年月日や性別、五十音順、出願順などの情報を収集し、できる限り多くの志望校を受験できるよう、保護者は戦略的に出願を進めています。それでも、実際には前年と状況が変わることも多く、計画通りにいかないのが実情です。
「売れっ子アイドル化」する子どもたち
多面的に評価される小学校受験は、知識の記憶や繰り返しのトレーニングだけでは突破できない試験です。しかし、年々幼児教室通いが過熱し、毎日複数の教室を掛け持ちしながら受験準備を進める家庭が増えています。実際、コノユメSCHOOLで実施したアンケートでは、毎月の幼児教室の授業料が15万円以上の家庭は45%にも上り、中には30万円以上を投じている家庭もあります。

ある家庭では、幼稚園や保育園が終わると、すぐにタクシーに乗せて次の幼児教室へ直行。分単位でスケジュールをこなすその様子は、まるで売れっ子アイドルのようです。
さらに、小学校受験でよく問われる「好きな生き物」や「大人になったらなりたいもの」といったテーマについて、親が答えを決めてしまうケースも見られます。もはや親がプロデューサーとなり、子どもの本来の個性とは異なるキャラクターを演じさせている家庭すらあるのです。
「子どものために」と始めた受験が、いつの間にか親の期待が先行し、子ども本来の姿が見えなくなってしまう。親が追い求めているのは、「合格する子ども」という虚像であり、そのために右往左往するうちに、本当に大切なものを見失っているのかもしれません。こうなってしまうと、「もっと子どもを見て」「子どもの元気がなくなっているよ」という周囲の声も、もはや耳に届かなくなってしまうのです。
子どもの「課題解決能力」が問われる試験
親たちは自分の受験経験を当てはめて、机に向かって勉強する時間を重視していますが、小学校受験は幼児の受験。家庭の生活の中で、何を学び、子どもたちに時には失敗経験も経てどのようなことを学ばせている家庭か、が問われています。
例えば、倍率10倍以上の人気私立小学校である慶應義塾横浜初等部の2025年度入試(2024年11月実施)では、こんな課題が出題されました。

(画像は筆者提供)
ショッピングモールで困っている人がいます。ショッピングモールで売っているものでその困っている人を助けます。困っている人を助ける道具を作りましょう。
その人が何で困っているかも自分で決めましょう。
幼児教室通いに追われるあまり、「ショッピングセンター」が何かすらわからない子もいます。仮に知っていても、どのような人が困るのか、どんな助けが必要なのかを想像できないこともあります。
私立小学校の先生はよく「年齢相応の体験、知識、成長をしているかを確認している」と言います。学校側は、受験準備に費やす時間よりも、日常生活の中で自然に培われる経験を重視しているのです。
またその後はこのような流れがありました。
・先生たちが困っている人を演じているので、声をかけて助けてあげる
・図書館がどこかわからない人や荷物を運べない人、転んだ人などがいる
本番の試験では、困っている人がいることがわかっていても、自分から話しかけることを躊躇している子が多くいたようです。確かに生活の中で、困っている人に声をかける経験はあまりなく、それが見知らぬ大人だったら、なかなか難しいですよね。
親が、例えば電車でお年寄りに席を譲る、物を落とした人に声をかける、など困った人を助ける実践をしていてこそ、子どもが困った人を助けようと思うのではないでしょうか。
子どもが主体的に動けるようになる、3つのポイント
小学校受験の対策として一番大事なことは、子どもが自分で考え、行動する力を育てること。そしてこれは、受験の有無にかかわらず大事なことだと思います。便利な世の中になり、子どもが何かにつまずいたときにすぐに手助けできる環境が整っています。
しかし、その手助けが多すぎると、自ら考え、行動する力を奪ってしまうこともあります。そこで、子どもが主体的に動けるようになるために大切な3つのポイントを紹介します。
① 10秒待つ:忙しい日々の中で、親はつい手を差し伸べてしまいがちです。ボタンがうまく留められない、ペットボトルのふたが開かない、料理をしているときに卵の殻が入ってしまった。そんなとき、良かれと思って、すぐに手伝ってしまうことが多いでしょう。
しかし、ここで 「10秒待つ」 ことが大切です。子どもが「どうしたらいいだろう?」と自分で考え、試行錯誤する時間を与えるのです。もし、すぐに助けを求めてきたら、「どうすればいいかな?」と問いかけ、考える機会をつくりましょう。そうすることで、子どもは自分で問題を解決する力を身につけていきます。
② 家事を共に行う:現代はとても便利な世の中ですが、生活の中には「手間がかかること」がたくさんあります。食事はすぐに出てくるわけではなく、洗濯物もたたまなければいけません。部屋を片付けなければ、どんどん散らかっていきます。こうした日常の営みを、子どもと一緒に行いましょう。子どもとやると余計時間がかかって大変、と思う方は週末だけでもぜひやってみてください。
例えば、料理を一緒に行えば、野菜の名前を知るだけでなく、段取り力や料理の工夫なども学べます。洗濯物をたたむとき、「どうやったらきれいにたためるかな?」と問いかけてみると、子どもなりの工夫が出てくるでしょう。子どもは「生活におけるさまざまなことは誰かがやってくれるものではなく、自分も関わるものだ」と学びます。
③ 気持ちの話をする:最近、「事実は話せるけれど、自分の気持ちを伝えられない子」が増えています。「今日は何をしたの?」とは聞かれても、「どんな気持ちだった?」と聞かれることは少ないからかもしれません。
例えば、何かうまくいかなかったときに、「悔しい」「悲しい」という気持ちを言葉にできると、「どうすれば次はうまくいくかな?」と考えるきっかけになります。また、誰かと意見が違ったときに、「私はこう思うけど、どう思う?」と伝えることで、自分の考えを整理し、行動に移すことができます。
私たち大人が少し意識を変え、「待つ」「共に生活する」「気持ちを話す」ことを心がけるだけで、子どもは自然と学びを深めていきます。子どもが本来持つ力を引き出し、未来へとつなげていけるよう、日々の関わりを大切にしていきましょう。
(注記のない写真:Xeno / PIXTA)