昭和女子大附属小、上野学園がケンブリッジ国際認定校に
2024年4月から昭和女子大学附属昭和小学校、上野学園中学校・高等学校がケンブリッジ国際認定校として授業を開始する。
ケンブリッジ大学国際教育機構によれば、日本国内のケンブリッジ国際認定校は19校1団体の合計20校(2023年12月現在)。内訳は、一条校が4校、インターナショナルスクールが15校(イギリスの教育団体であるブリティッシュ・カウンシルを含む)だ。一条校では、2021年に工学院大学附属中学校・高等学校が初の認定を取得し、3年間で4校が認定校とされた。
サレジアン国際学園中学校・高等学校 2022年1月
上野学園中学校・高等学校 2023年8月
昭和女子大学附属昭和小学校 2023年10月
インターナショナルスクールでは、イギリス系インターナショナルスクール4校を筆頭に旧英国領だった国地域からの駐在員が多いインド系などのインターナショナルスクールで認定が増えている。
ローラス・インターナショナルスクール・オブ・サイエンス
ムサシ・インターナショナルスクール・東京
Yokosuka Bilingual School Elementary YBS小学校
サンモール・インターナショナルスクール
キャメロット・インターナショナルスクール
コハナ・インターナショナルスクール
イギリス系
ブリティッシュ・スクール・イン・東京
ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン
ラグビースクール・ジャパン
アスコット・インターナショナルスクール・ジャパン
インド系および旧英国領
グローバル・インディアン・インターナショナルスクール・東京
東京ベイ・インターナショナルスクール
UIA インターナショナルスクール・オブ・東京
エヴェレスト・インターナショナルスクール・ジャパン
日本では、国際バカロレア認定校は216校あり、ケンブリッジ国際認定校等は20校・団体ある。一方、世界では国際バカロレア認定校は159カ国に5600校、ケンブリッジ国際認定校は160カ国に1万校ある。
日本では、国際バカロレア200校計画により認定校は216校に達しているが、ケンブリッジ国際認定校等は20校・団体と、世界と逆転現象が起きている。
工学院大学附属中学校・高等学校の教諭・岡部憲治氏は「2017年、日本初のCambridge Englishスクールに認定され、英語で哲学、文学を学んだことが2021年4月の日本初のケンブリッジ国際認定校につながった」と話す。
その後、国際系中高一貫校が人気になりサレジアン国際、上野学園がケンブリッジ国際認定校となった。昭和女子大学附属小が英語指導比率の高い国際コースを開設し、認定校になった。その背景には、英語で学ぶプリスクールが多い立地も関係している。
なぜ導入校が増えているのか
ケンブリッジ国際認定校が増えている背景として見逃せないのが、国際バカロレア200校計画の啓蒙活動の副効果だ。
国際バカロレア認定校を増やすために、全国で国際バカロレアの勉強会が学校や教職員、保護者向けに開催され、その結果、各都道府県でトップバッターの学校が認定校になった後、2巡目、3巡目と認定校を検討する学校が増えていった。
しかし、国際バカロレア認定校になるには、理念から探究的な学びへの構造変化、教員研修など変化が求められるため、費用面を含め負担が大きい。検討はしても国際バカロレア認定校になることを断念した学校も数多くあった。
国際バカロレアの啓蒙活動によって、自分たちの学校で取り組みやすい国際的な学びを模索する動きの1つがケンブリッジ国際認定校の増加だ。
実際、都内のインターナショナルスクールの経営者は「国際バカロレアを検討したが、特定の科目に集中したカリキュラムは組めない。科目ベースのケンブリッジ国際を選んだ」と話す。
ケンブリッジ大学国際教育機構としては、カリキュラム編成をデザインするのは学校であり、ケンブリッジが提供する科目の中から、学校が目指す姿に沿って、自由に科目数や導入の仕方を設計できる。一条校であれば、単元の読み替えは必要になるが、日本の学習指導要領に沿った取り組みができる。
国際バカロレアとケンブリッジ国際のカリキュラムの違い
ケンブリッジ国際プログラムは、ケンブリッジ大学国際教育機構が提供するカリキュラムで、ケンブリッジ国際認定校は、ケンブリッジ大学国際試験機構によって認定された学校である。
学び方にも大きな違いがある。それは、教授言語だ。ケンブリッジ国際の教授言語は英語が基本である。国際バカロレアでは、英語・日本語のデュアルランゲージのDP(ディプロマ・プログラム:16〜19歳を対象とした国際バカロレアプログラム)が開発されたように、国際バカロレアは教授言語が英語、フランス語、ロシア語など軸となる言語が多様である。
国際バカロレアがユニットベースで学ぶのに対し、ケンブリッジ国際は科目ベースで学ぶ。
ケンブリッジ国際のカリキュラムは、AS & A Levelで絞り込む前にIGCSEで科目の選択肢が豊富に用意されている。学際的に科目横断で学ぶ国際バカロレアの学びとは対照的に、科目を軸に学ぶケンブリッジ国際は科目の豊富さが特徴だ。ケンブリッジ国際は、学際的な学びとして、「グローバルパースペクティブ」を導入している。
世界のインターナショナルスクールでは、国際バカロレアとケンブリッジ国際を教育課程で使い分けているケースもある。小学校は、IB PYPで探究的な土台を作り、中学校はケンブリッジ国際のIGCSEで豊富な科目から自分の興味とアカデミックさに触れ、高校はIB DPまたはA Levelのどちらかのコースを選べる仕組みだ。
国内では、横浜にあるサンモール・インターナショナルスクールは、ケンブリッジ国際のIGCSEからIB DPで学ぶ仕組みを用意している。
国際バカロレアとケンブリッジ国際のよさを補完し合うように学校側が組むことが多い。そのため国際バカロレア認定校であり、ケンブリッジ国際認定校でもあるという学校も多い。
大学進学の実績にはどのような影響を与えるのか
大学志願資格として、国際バカロレアのDPとケンブリッジ国際のA Levelは対照的で比較されることが多い。
国際バカロレアのDPは、2年間で6科目と3つの要件を2年間で投入していくため、学びのトライアスロンのようなハードさがある。その一方で、A Levelは2年間、3〜4科目をじっくりと深掘りしていく。
生徒が、得意科目と苦手な科目がある場合、国際バカロレアのDPを取得するには、1科目も落とせない。そのような生徒の場合、ケンブリッジ国際のA Levelは得意科目に専念できるメリットがある。
しかし、大学志願を考えると大学側は、A level で取得するべき科目を指定していることが多い。希望する大学が志願時に指定する科目に得意科目があるとは限らず、科目を絞ったがゆえに志願できる大学が絞られるケースもある(例:文科省は、国際バカロレアは、DP、ケンブリッジ国際は、ALevel、AS Level、IGCSEを習得していることが国内の大学志願資格があるとしている)。
日本で実践されているケンブリッジ国際プログラムの質
国際バカロレアは、教員、職員とも各段階で研修プログラムが豊富にあり、キャリアアップと同時に教員同士のコネクションを作り出している。同時に研修を必須としているため国際バカロレアの学びの体系をバージョンアップする仕組みがある。その一方で、各教員が探究的にファシリテートしていく質のバラツキは課題に挙げられている。
ケンブリッジ国際カリキュラムを教える教員の質について、ムサシ・インターナショナルスクール・東京の事務長・新井幸雄氏は「海外の教員資格を持ち、科目指導ができる教員はケンブリッジ国際で教えやすい」と語る。日本をはじめ各国の教員養成は科目ベースが中心である。そのためケンブリッジ国際の科目ベースは日本の学校でも取り組みやすい。
その一方で、国際系一条校が増えていく中でケンブリッジ国際、国際バカロレアともにコーディネーターが不足している。英語と日本語で教員と管理職と、カリキュラムや指導方法などを調整する重要な役割である。
国際プログラムの司令塔であるコーディネーター不足は、国際系一条校が増える中でボトルネックになる可能性がある。
国際プログラム認定校が日本の教育に与える変化
国際バカロレアの200校計画のプロセスの中で、日本の教育現場は、「探究」の仕組みやクリティカルシンキングを導入してきた。
国際バカロレア認定校が増える中で、地域の文化背景を取り入れた特色ある学びが増えている。
ケンブリッジ国際の特徴として、科目主体の学びに国際的な視野で横串を入れる「グローバルパースペクティブ」がある。世界的な視座で考える「グローバルパースペクティブ」は、ケンブリッジ国際認定校以外でも取り組みやすい仕組みだ。今後、一条校の「グローバルパースペクティブ」の学びが研修会などを通じで総合学習など探究の時間につながる可能性がある。
一条校が国際プログラムに取り組むことで学習指導要領との読み替えなど実務面のすり合わせが生じる。そのプロセスを通して、学びの内容、教授法の再認識など見直しによって、学校が内から多様な時代に合わせた学びにアップデートする機会を得る。
一条校がケンブリッジ国際、国際バカロレアなどの国際プログラムを導入することで生徒が国内外の進路をさらに選べるようになる。教職員も多様化し、教授言語の多様化から校風などが国際化していく。欧米の大学の授業料の高騰により、学んだ生徒が海外の進学につながるとは言えないが、国内の英語で学べる大学、コースも増えており、多様な人材を育成していく仕組みが出来上がっている。
一方で、国際プログラムを導入することで考えられるリスクもある。それは、プログラムの変更に関与することができない点だ。現在、イギリス国内では、ケンブリッジカリキュラムの見直しが進んでいる(注:ケンブリッジ国際と同じではない)。
現在、大学志願に用いるA Level は、3科目から4科目が中心であるが、イギリス国内では最低5科目(例:3つの主専攻と2つの副専攻)などが提案されている。イギリスの生徒は、16歳から19歳の間に3科目、4科目を学ぶのに対し、OECD平均は7科目である点もイギリス国内の後期中等教育の見直しにつながっている。A Level の見直しが議論されると同時にT Levelが新設され、インターンを含めたキャリア教育が導入され始めている。
ケンブリッジ国際カリキュラムは、言うなればイギリスの文部行政の海外版であり、今後A Levelの仕組みが変化する可能性がある。
このように国を基準とした国際プログラムでは、その国の政治、思想などの変化によって影響が生じることがある。しかし、国際プログラムは、世界で同時に学ばれており、世界の最先端の学びがアップデートされる仕組みが準備されている。
技術変化の速い現代において、子どもたちが活躍する未来の変化も速い。国際教育プログラムは、社会変化と世界的に連動し、ICTなどのテクノロジーの変化を取り込みながら学校が進化し続けるようにサポートしている。
国際教育プログラムと学習指導要領がハイブリッドに連動することで、世界と日本を結びつけた学びとなり、結果的に子どもたちの未来を担保できる仕組みになるのではないだろうか。
(注記のない写真:ムサシ・インターナショナルスクール・東京提供)