学級内で笑いが起きなくなったら要注意

三好真史(みよし・しんじ)
1986年大阪府生まれ。大阪府堺市の公立小学校教諭として13年間勤務した後、2022年度より京都大学大学院教育学研究科に在籍。メンタル心理カウンセラー。教育サークル「ふくえくぼの会」代表。著書に『子どもがつながる!クラスがまとまる!学級あそび101』(学陽書房)、『教師の言葉かけ大全』『授業づくりの言いかえ図鑑』『守る学級経営』『攻める学級経営』(東洋館出版社)など
(写真は本人提供)

学級経営や教師の言葉かけに関する著書を多数持つ三好真史氏。小学校教員時代を振り返りつつ、11月ごろの児童の様子について次のように語る。

「日照時間が短くなる10月から11月にかけて、“安心ホルモン”であるセロトニンの分泌量が減り、子どもたちの心が不安定になります。また、運動会や発表会などの行事が重なって集団行動が多くなり、皆と同じことができない子へのいじめが始まることもあります」

高学年は行事で主要な係を担うため、行事が終わって目標を失うと、刺激を求めて学級崩壊につながる言動をとることもあるという。行事はないが、冬休みまではまだ時間があるというこの時期こそ、学級経営上は要注意なのだ。

教員が児童とよい関係を築けているか確認する方法として、三好氏は「健全な笑いが起きるかどうか」「児童に謝ったときの反応がどうか」の2つの観点を挙げる。

「健全な学級であれば、教員が面白い話をしたときに『ワハハ』と笑いが起こります。しかし、子ども同士で日常的に『先生のここが嫌だ』などの会話がされていると、笑いが起きなくなります。また、急な時間割変更などで『予定が変わりました、ごめんね』と謝ったときの反応が、『わかりました』『大丈夫です』であれば良好な関係ですが、『はあ?』『まじで?』という返答の場合は、関係性は悪くなってしまっていると思われます」

嫌われたら反発されるからと、児童にフレンドリーに接する教員は少なくない。しかし、三好氏は「信頼関係は仲のよさでは判断されない。児童に憎まれないように厳しい指導をすることも可能だ」と指摘する。

「とはいえ、ただ厳しくすればよいのではなく、『さっきの話、先生はこう思って言ったんだけど、わかってくれた?』と、その日のうちにフォローすることが重要です。『先生はそこまで考えてくれていたのか』ということが伝われば、信頼関係は回復しやすい。逆に、フォローが不十分で納得できていないまま帰宅させてしまうと、児童の中で教員への怒りが増大し、家で親に不満を言ったりして、翌日から険悪になりがちです」

学級の「落ち着きのなさ」は、低学年は児童同士の喧嘩、高学年は教員への反抗という形で表れることが多いという。

「2年生あたりの担任『あるある』ですが、授業を始めると、児童から休み時間中の喧嘩やトラブルを報告されます。年齢的に子どもの本心は、喧嘩の解決というより、『自分の話を聞いてほしい』というのが強い。授業中に対応してしまうと、『喧嘩すれば先生に話を聞いてもらえる』と勘違いしてしまうため、『話は次の休み時間で聞くから今は授業を受けましょう』と伝えましょう。いざ呼び出すと、『もういいや!』とあっけらかんとしていることも多いものです」

高学年の反抗的な態度には、「子どもが思ってもみない反応を返すことが大切」と三好氏。「『静かにしなさい』『ちゃんとやりなさい』と叱ると子どもの思うつぼで、期待通りの言葉を求めて反抗的な言動を重ねがちです。一方で、教員が想定外の反応をする“交差交流”をすると、やり取りが終わることも多々あります。例えば、『その行動をとる理由を説明してください』と淡々と説明を求めたり、『ああ、これね、面倒くさいよね』と茶化したりするなど、子どもが反応に困る返答をすることが大事です」

学級のボスや取り巻きの児童にはどんな対応をすべきか

学級の「ボス」的な児童が、取り巻きを従える形で学級の雰囲気を乱すケースも少なくない。

「皆の前で注意すると、『ボス』も周りの目を気にして反抗的にならざるをえません。休み時間にちょっとした手伝いを頼んで呼び出し、1対1になったタイミングで『最近、授業中の態度が気になるんだけど、ちゃんと集中できてる?』と伝えると、子どもも聞き入れやすいです」

「ボス」の児童への個別対応と並行して、取り巻きの児童への対応も忘れてはならない。

「『(ボスに)やれと言われたから』という理由で行動してしまう取り巻きの子どもたちは、将来、使い走りのような立場で悪事に巻き込まれる恐れもあります。今から回避するためにも、『本当にそれでいいの?』『自分はどう思っているの?』と問い続けることが教員の役割だと思います」

ボスと取り巻きの児童たちの団結力を、ポジティブな活動で発揮してもらうのも手だ。授業中は議論や調べ学習などチーム活動を充実させ、生活班の活動で、それぞれ「ボス」「取り巻き」以外の児童と交流できる機会を設けると、クラス全体の風通しがよくなると三好氏は語る。また、「ボス」が率いるグループではない児童への対応も重要だと三好氏は続ける。

「教室内で、2割の児童が望ましい行動をとり、2割がボスにつられて反抗的な態度をとるとすると、残りの6割がどちら側につくかで学級の雰囲気が変わります。この子どもたちは突出して目立つことが少なく、なかなかほめられる機会も叱られる機会もありません。こまめに声をかけたり、宿題のノートに一言メッセージを書いたりして、『よい行動をすると、先生もちゃんと見ていてくれる』という実感を持たせることが大切です」

教員が見落としがちな「ヒドゥン・カリキュラム」とは

さらに学級の雰囲気が悪くなる一因として、「ヒドゥン・カリキュラム」がある。三好氏によれば、「ヒドゥン・カリキュラム」とは教員が無意識のうちに児童に教えてしまっているもので、以下が例だ。

 ・挙手している子どもの発言だけで授業を進める
  →「授業中は何も考えなくてもかまわない」
   「人任せにしていれば自分が傷つかずにすむ」
   「何もしなければ失敗することがなくて楽だ」

 ・授業中に教員をあだ名で呼ぶのを許す
  →「授業時間と休み時間のけじめはつけなくてもよい」

 ・授業中に不要な発言をしている子に教員が何も言わない
  →「授業中に不要な話をしてもよいのだ」
   「先生はあの子を特別扱いしている。あの子の言うことは聞いておこう」

 ・教員の机の上が散らかっている
  →「身の回りの整理整頓はしなくてもかまわない」
   「先生は整理整頓をしろと言うが自分はしていない。本音と建前は違ってよいのだ」

 ・教室の花瓶の花が枯れている
  →「植物は雑に扱ってもよい」
   「教室内のものは汚れていてもかまわない」

 

「子どもたちはカリキュラムに含まれていない事柄も、言動や環境からこっそり学び取っています。例えば、授業中に挙手する児童が少ない場合は、一度全員を起立させ、自分の意見を持てたら着席してもらうことで、全員を『考える』という活動に参加させることができます。

教員の工夫次第でヒドゥン・カリキュラムは改善できます。自分が生み出しているヒドゥン・カリキュラムを自覚するには、他クラスの教員の意見を聞くなど外部の目を入れるとよいでしょう」

学級が荒れ始めたと感じたときは、教室環境の改善から

すでに学級が荒れた状態にある場合は、どこから対処すればよいのだろうか。三好氏は「教室環境の改善から始めてみては」と提案する。

「荒れた学級では、机の横に掛けてはいけないものがあるなど、物の置き場所のルールが守られていないことが多い。授業中に5分間だけ片付けの時間をつくり、物の置き場所を正させることであれば実行しやすいと思います」

朝礼時の整列や給食準備などの集団行動が遅くなることも、荒れた学級によく見られる特徴だ。「早くしなさい」と言うだけでは改善しないため、数字で具体的な目標を示すことが有効だと三好氏。「『昨日は整列に5分かかった。今日は何分を目指す?』とタイマーで計ると、学級全体で達成感を得られます」

三好氏が高学年の担任をした際は、10月末にハロウィンパーティー、12月の終業式前にクリスマスパーティーをしたという。特別活動の時間で3週間ほどかけて準備に取り組んだことで、児童はそこにエネルギーを注ぐようになり、反抗的な態度がエスカレートすることはなかったそうだ。

教員時代に学級経営で悩んだとき、三好氏は自らが師事していた先生や外部の教員サークルで出会った教員仲間などに相談をしていたそうだ。「いざというとき相談できる人がいるだけで心強いもの。しんどくなりやすいこの時期を、教員自らの心身の健康を守りつつ乗り切るためにも、校外や教員でない人でもよいので、自分なりの相談役を見つけてほしいと思います」

(文:安永美穂、注記のない写真:つむぎ / PIXTA)