「ICTを使って学ぶ方法」を身に付けなくてはならない理由

なぜ、これからの教師はICTを使って学ぶ方法を身に付けなければならないのか。それは「自分に必要な学びを自分で選ぶ時代」だからと話すのは、初任者研修拠点指導教員の吉良良介(きらりょうすけ)先生です。

学校でICTの活用を推進していく中で、先生方のICTに対する意識の違いに困惑していた江渡先生は、新任教諭の森野都(もりのみやこ)先生とともに、吉良先生の話を聞くことにしました。

ICT環境の整備は手段、「目的」を見据えてバージョンアップを

GIGAスクール構想によって、全国の学校に1人1台のタブレット端末が整備されました。多くの学校で、その活用が進みつつあります。さて、その目的とはいったい何だったのでしょう。2019年の文部科学大臣からのメッセージには次のように書かれています。

忘れてはならないことは、ICT環境の整備は手段であり目的ではないということです。子供たちが 変化を前向きに受け止め、豊かな創造性を備え、持続可能な社会の創り手として、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成していくことが必要です。

出所:文部科学省「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて〜文部科学大臣メッセージ〜」2019年

 

しかし、現状では、「タブレット端末をどのように活用するのか?」といった方法論に目が向きやすくなってはいないでしょうか。従来の授業のやり方にタブレット端末を加えただけになってはいないでしょうか。この「目的」は簡単には達成できるものではありません。だからこそ、できることからスタートしながらも、目的を見据えてバージョンアップしていく必要があるのだと思います。

ICTが得意な先生にも課題はある「従来の一斉指導」から脱却を

IT企業から教師に転職した江渡先生は、デジタル機器の操作が得意なため、ほかの先生方にも見にきてもらって、端末を使った授業を行いました。授業内容は「プログラミングで正多角形をかこう」です。

一見、スムーズに見える授業ですが、何が問題なのかわかったでしょうか。江渡先生の授業の方法は、従来の「教師主導による一斉指導」そのままのスタイルです。教師が問いを出して「できる子ども」 が正解を発表し、ほかの子どもに理解させるというやり方です。勉強が得意な子どもにとっては活躍の場が多くあり、全体的に活発に見える授業です。

しかし、理解に時間がかかり、しかも人前で発表することが苦手な子どもにとっては、学習は面白くないものになり、苦手意識はますます助長されることになるでしょう。また、理解が早くて、どんどん先をやりたがる子どももいるはずです。そのような子どもは、教師の指示を無視してでも、自分であれこれと試しながら気づいていくことができるのです。

これはプログラミングに限ったことではありません。せっかくタブレット端末が学校に導入されても、従来の一斉指導をそのまま踏襲していることはないでしょうか。いわゆる授業支援ツールを使いながらデジタルデータによる教材やワークシートのやりとりを行っているだけの教師主導の授業も多く見かけます。これでは、主体的・対話的で深い学びの視点による授業改善にはつながらないのです。

一般的に、子どものほうが大人よりも早くデジタル機器の操作を習得できます。子どもは操作ミスを恐れずにいじくり回すことができるからです。創造的な学習においては、このようにいじくり回しながら発見を通して問題解決につなげていくことが極めて重要になります。

漫画では、江渡先生が「まとめ」を板書して、ほかの子どもたちはそれを写すという作業で授業を終えます。しかも、子どもたちの「振り返り」には「やったこと」と「感想」しか書かれていません。 これでは、学習内容も学習方法も言語化することができないでしょう。本来は、学習活動を通して学んだことを記述させるべきです。一人一人の「学び」が共有されて、広がりと深まりが生まれます。

ICTが苦手な先生でも「ベテランの授業力」が生きることも

一方、ICTが苦手な先生であっても、また今までと同じ授業内容であっても、端末を活用することで、あっという間に創造的な学びを実現することもできます。

江渡先生に、何度も同じ質問をしてしまうほどICTが苦手なベテラン教員の舎貝常道(しゃかいつねみち)先生は、敬語の学習に端末を活用することに。これまでの授業では寸劇を行っていたものの、寸劇を端末で撮影して動画を作り、お昼の時間にビデオ番組として校内で放送することにしました。

タブレット端末を使うと、このような学習活動が簡単にできます。子どもたちは、「敬語の使い方」や「歴史上の出来事」といった「既有の情報」だけではなく、自分で調べたり考えたりしながら「新たな情報」を加えているのです。

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こうすることで、敬語が使われる場面や歴史上の出来事の背景などが明確になり、より深く理解されるようになります。このように新たな情報を自分の既有の情報と関連づけることを「精緻化」といいます。単に何かを作ればよいというわけではなく、精緻化が促されるように配慮することで学習の効果が上がるわけです。

「主体的・対話的で深い学び」という言葉が広がる前に「アクティブ・ラーニング」という言葉が広がりました。どちらにしても、その目的は、アクティブ・ラーナーを育てることです。

ここでいうアクティブ・ラーナーとは、「自ら課題を見つけ、自ら学び続けることができる人」のことを指します。 アクティブ・ラーナーを育てるためには、授業の中での学習に限定するのではなく、休み時間や放課後、家庭での時間といった授業外の場で、一人で学習する経験を積ませる必要があります。

そもそも、人間は自分が好きなことは自分から学ぶものです。自分自身の判断で価値のある課題を設定し、学習してきた内容や方法を生かしながら何とか自分で解決していくという「探究型の学び」は本当に楽しいものであり、 アクティブ・ラーナーとしての意欲やスキルを高めることにつながっていくのです。

(注記のない画像:すべてさくら社提供)