有名観光地ばかり旅行する人が見落とす重要視点 「違った街」で「いつものこと」をする効用

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僕は思った。もしこのとき僕が他の誰かと、たとえば親しい友人たちと来ていたら、きっと空き時間に台北の名所旧跡を回る観光に出かけていたはずだった。ワイワイと大はしゃぎで出かけた先で写真を撮り、そしてWikipediaを引いていただろう。

それはそれで、きっと楽しかったと思うのだけれど、もしこうしていたら、僕が学生街のスターバックスで体験したような出来事には出会えなかったと思うのだ。誰かと行くとその人とのやりとりのほうに気を取られてしまうし、何かを観に行くとか、しに行くといった「目的」があると、それ以外のことはあまり目に入らなくなってしまって、その土地に立つことではじめて気がつくことには鈍感になってしまう。

ひとりで、いつも暮らしている街とは違う場所に足を運び、そこでなるべくいつものよう過ごすことで、はじめてその場所が僕たちに与えてくれるたくさんの気づきに触れることができるのだ。

目的はないほうがいい

他のあそびと同じように、旅もあまり目的がないほうがたくさんのものに出会うことができる。これを見に行こうと決めて出かけると、どうしてもあらかじめ決めたものしか印象に残らない旅になりがちだ。

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いつものように過ごすからこそ、自分が普段暮らしている土地と、旅で訪れた土地との違いがわかる。それは気候だったり、街並みだったり、食べ物だったりする。いつも暮らしている街よりも寒い土地で朝目覚めたとき、自分はそのほうがすっきり目が覚めることに気づく。少し遠い街では、定食屋で出てくる醬油や漬物の味が普段住んでいる街とは違うことに気づく。

こうした「違い」がわかるようになると、普段暮らしている街も細かく見えてくる。たとえば、いつも何気なく前を通り過ぎているけれど、このちょっと変わった建物はなんだろうとか、なぜこの道にはたくさん銀杏の木が生えているのだろうとか、そういうことが気になり始めていく。そのうえで、調べる。違いに気づいて、調べる癖がつくと、毎日の暮らしが楽しくなっていく。これが旅に出て「人が変わる」ということだろう。

宇野 常寛 評論家

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うの つねひろ / Tsunehiro Uno

1978年生まれ。評論家。批評誌「PLANETS」「モノノメ」編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)『遅いインターネット』(幻冬舎)『水曜日は働かない』(集英社)『砂漠と異人たち』(朝日新聞出版)ほか。

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