福山市が「業務のムダ削減」縦割りを変えた大改革 プロジェクトマネジメントの発想で組織が一転
コロナ禍で顕在化した、業務の根本的な課題
瀬戸内の中心部に位置し、人口約46万人を抱える広島県の中核都市・福山市。近年多くの地方都市が直面している人口減少とそれに伴う行政のスリム化、そして職員の働き方改革を両立させるため、戦略的にデジタル化を推進してきた。
枝広直幹市長が就任した2016年9月以降、市政運営の基本方針に「スピード感・情報発信・連携」を据え、17年には「第三次福山市情報化計画」を策定。ICTの活用による、行政事務の効率化や行政サービスの充実に取り組んできた。
福山市が大きな転換期を迎えたきっかけは、コロナ禍だった。市にあるデータをうまく活用できないなどさまざまな課題が浮き彫りになった。そこで従来の計画を見直し、21年11月には「行政版デジタル化実行計画」を策定。この計画の基本方針の1つに「行政内部事務の効率化」が盛り込まれ、作業の自動化に向けた施策が動き出した。
当時の組織が抱えていた課題について、福山市 総務局総務部参与(デジタル化担当)の岩崎雅宣氏はこう語る。
「作業効率を上げるためには、自動化・迅速化する対象を把握しなくてはいけません。ところが、誰がどこからどこまでを担当しているのか、全体的にどれくらいの業務量があるのか、全貌を管理しきれていないことが改めて露見しました。そこで、まずは業務の洗い出しをしたところ、1つの業務に必要以上のリソースをかけていたり、進め方が非効率的だったり、報告・連絡・相談が行き届いていなかったりと、さまざまな課題が顕在化。それまで問題なく遂行できていると思っていた業務にも、改めてムダの多さを痛感するようになりました」
総務局 総務部 ICT推進課 ICT企画担当次長の松岡基司氏と、同課の曽根将之氏は、次のように続ける。
「『スピード感・情報発信・連携』を実現するためにまず市政の現状を知ろうと、市民に年4回のアンケートを行い意見を募る、『市政モニターアンケート』を実施しています。これにより多様かつ複雑なニーズが浮かび上がり、解決のためのプロジェクトが増加。複数の部署が協働する必要が生じた一方、市役所は縦割りの組織ゆえに、連携の難しさやプロジェクトの進めにくさを実感していました」(松岡氏)
「現場には業務指示が来るのみで、その背景や目的まで落とし込まれないまま、上司の指示に従って業務を進めるほかない状況。一般職員の立場としては『これは、本当に必要な作業なのだろうか?』と疑問を持つことが少なくありませんでした。また、他部署と連携する際、上長からの指示を説明し直す必要があり、結果的に業務量が増えてしまう点も課題でした」(曽根氏)
市民生活を支える基盤となる行政の仕事にこそ、「人間にしかできないこと」は限りなく多い。一方で、アナログな業務の進め方により、円滑な業務遂行が阻害されてしまう。この状況を改善するために、福山市は業務の構造を抜本的に変える方針を固めた。
「プロジェクトマネジメント思考」の組織へ
まずはデジタル活用の推進に向けた体制を整備。副市長の中島智治氏がCIO(最高情報責任者)に就き、CDO(最高デジタル責任者)にはデジタルの専門家である外部人材を登用した。さらに、施策を確実に実行するための重要事項を整理し、喫緊の課題に「プロジェクトの目的の明確化」「プロジェクトマネジメントの浸透」を挙げた。
「これまでプロジェクトの狙いや意図が漠然としていたこと、誰が・何を・いつまでに実行するのか職員の経験則で管理されていたことが、業務のムダにつながっていました。かけた労力の割に成果が出ないとなれば、担当者のやりがいまで損ないかねません。そこで、上層部と現場、上司と部下、部署間それぞれの情報共有をスムーズかつストレスフリーにすること、つまりワークマネジメントの徹底を目指すことになりました」(岩崎氏)
上層部と現場の情報連携については、それまでプロジェクトの進捗を市長レベルに報告する際、表管理ツールにまとめ直す作業を要し、資料作りにムダな時間とコストが発生していた。報告内容も統一されておらず、部署ごとに情報の粒度に違いがあったという。松岡氏は「報告する側・される側の双方が苦慮していた」と振り返る。
また、上司が部下に業務の進捗を確認する際、任意のタイミングで口頭でのヒアリングを都度行っていた。部下はそのたびに手を止めることになり、優先事項を見失うなど、作業効率の低下を招いていた。そして部署間については、プロジェクトの共通理解、役割・進捗の可視化が不完全なことから、双方の理解にギャップが生じたり、そのフォローに奔走したりと、関わる職員の業務にムダが生じていた。
これらの課題を払拭するために導入されたのが、ワークマネジメントツールのAsanaだった。岩崎氏は、導入の決め手をこう振り返る。
「目標管理やプロジェクトマネジメント、施策全体の俯瞰、他部署とのスムーズな連携などのすべてを実現できるツールを導入したいと考えました。まずは複数の部署で、計50名ほどの職員にいくつかのツールをトライアルで使ってもらうことに。その結果を基に必要な機能要件を整理し、管理ツールの仕様書をまとめました。公募の結果、Asanaを導入することが決まりました」
Asanaを軸に改革、業務効率だけでなく意識も変化
Asanaを本格導入してから約半年だが、「仕事の進め方」そのものが確実に変わってきている。
「プロジェクトの内容・目的・進捗をAsanaで一元管理するようになり、タスク数や完了数が可視化されました。職員にとっては、自分の担当業務がどんなゴールにひも付いているのか、現時点でどれほど進行できているのか一目でわかるようになり、達成感につながりました。また、管理職にとっては、ポートフォリオ機能で進行中プロジェクトの全体像を把握できるため、上司と部下の確認工数が減少。アウトプットの発想やマイルストーンの意識、つまりワークマネジメントを体現できていると思います。さらにUIが直感的で誰にでも使いやすい。Asanaにはコミュニケーションツールも搭載されているので、職員同士のやり取りの履歴が残り、確認しやすくなりました」(岩崎氏)
管理職である岩崎氏自身の手応えについても、「Asanaを導入してから、業務の優先順位をつけやすくなりました。また、Asanaではリアルタイムで仕事の状況を把握できるので、部下の作業を中断させて進捗を確認する必要がなくなり、作業効率が上がったことを実感しています」と力を込める。
副市長をはじめ上層部の面々もAsanaのアカウントを持っているため、進捗報告のための資料を作成する必要がなくなったという。
松岡氏は「Asanaの活用が進むにつれ、プロジェクトマネジメントの強化とともに、報告のたびにプロジェクトの進捗を表管理ツールにまとめ直す作業が不要になりました。コミュニケーション面では、副市長からAsana経由で直接メッセージが届くので、最初は驚きました。それまで電話や口頭などで伝言ゲームのように伝わっていた伝達事項も、プロジェクトに関わる全員が同じメッセージを同時に受け取れるようになり、認識の齟齬(そご)が減りました。上層部の理解と後押しが、Asanaの利用促進にもつながっています」と話す。
現在、約600のプロジェクトがAsanaで管理されている。各職員は、それにひも付けて自分のタスクを落とし込み、プロジェクトを管理、実行しているという。
確実に業務改革を進めている福山市だが、「民間企業のスピード感とは乖離があります。今はまだ『よちよち歩き』の段階」と岩崎氏は語る。福山市の職員約4000人のうち、現在Asanaのアカウントを持っているのは約700人で、これから段階的に増やしていく予定だ。
Asanaを業務改善の軸に据え、施策を推進している福山市。質の高い市民サービスを提供するためには、提供する組織の質も問われる。福山市は、次世代の「質の高い行政組織」の姿を示してくれるだろう。
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