「即レス=仕事の基本」という致命的な勘違い チャットに追われ続ける「新しい働き方」はNG

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今、多くの企業では「ニューノーマルな働き方」への対応が喫緊の課題となっている。コロナ禍をきっかけにリモートワーク対応用の業務用PCやスマホが支給され、ビデオ会議やチャットのツールが整備されたという職場は多い。しかし驚くべきことに、チャットやメールへの「即レス」を求められるこの環境は、かえってナレッジワーカーの集中力をそぎ、ミスを誘発するという研究結果がある。その根拠を、脳科学のアプローチから探ってみよう。

業務時間の6割は「価値を生まない仕事」が占めている

コロナ禍を受けて、日本企業にもリモートワークが定着しつつある。しかし、それで業務効率が高まったと考えるのは早計だ。Asanaが世界8カ国のナレッジワーカー1万3000人以上を対象に行った調査「『仕事の解剖学』インデックス2021」によると、1日の仕事のうち、専門性を有する仕事に費やされる時間は約26%、戦略策定に費やされる時間はわずか14%にすぎなかった。残りの約60%は、資料作成のための会議や進捗会議に向けた会議など、付加価値を直接生まない「仕事のための仕事」に費やされているというわけだ。

Asana Japan 代表取締役 ゼネラルマネージャー
田村 元

「仕事のための仕事」の割合が高くても、全体の労働時間が短くなっているならまだ「リモートワークにより業務効率は上がった」といえるかもしれない。しかし2020年の年間残業時間は455時間に達して、前年の242時間から大幅に増加している。業務生産性は、リモートワークの浸透によってむしろ低下しているようだ。この驚くべき調査結果に基づき、Asana Japanの田村元氏は次のように指摘する。

「社員にPCや業務用スマホを支給したり、リモートでも円滑にコミュニケーションできるようにビデオ会議システムやチャットツールを導入したりした企業は多くあります。しかし、コミュニケーションそのものは仕事の本質ではありません。本来は仕事そのものをマネージしなくてはいけないのに、多くの経営者はデジタルデバイスやツールを整えただけで満足して、生産性の高い働き方を実現するための取り組みをしてこなかった。それが、この結果を招いています」

脳科学が明らかにした「マルチタスク幻想」

生産性を高める取り組みに未着手だとしても、リモートでのコミュニケーション環境を整えたことが、なぜ逆に生産性の低下を招いたのか。その現象を読み解くカギが、マルチタスク幻想だ。

複数の仕事を同時並行的に処理する「マルチタスク」は、一般的に効率のいい仕事の進め方だとされてきた。しかし認知神経科学の知見によると、それは誤り。カリフォルニア大学バークレー校教授で認知神経科学者のサハル・ユーセフ教授は、「マルチタスクは生産性低下の元凶」と言う。

カリフォルニア大学バークレー校教授
認知神経科学者
サハル・ユーセフ教授

「人間の脳はそもそも、マルチタスク向きにはつくられていません。マルチタスクをしているつもりでも、実際はタスクを細分化して次々に切り替えているというだけで、切り替えのたびに余計な時間とエネルギーがかかっているんです。一度集中が途切れれば、再度集中し直すためのコストもかかります。実験では、マルチタスクによってミスが50%増えました。マルチタスクよりもむしろ、シングルタスクに集中するのが人間の本来あるべき姿といえます」

しかしリモートワークの浸透により、ナレッジワーカーはマルチタスク的な働き方をせざるをえなくなった。何かの資料を作りながらメールやチャットツールにも絶えず目を光らせて、プッシュ通知がくればすぐに反応し処理するといった具合だ。前出の「『仕事の解剖学』インデックス2021」によると、ナレッジワーカーが1日に業務アプリを切り替える回数は平均25回。そのたびに集中が途切れるのだから、生産性が低下するのは当然だ。

問題はそれだけではない。サハル教授は次のように警鐘を鳴らす。

アプリを切り替えること、つまり「マルチタスク」には、これだけの悪影響がある

「責任感の強い人ほど、仕事の情報を受け取ることに過敏になる傾向があります。メールやチャットに振り回されると、その分余分なストレスも受けてしまう。いつでもどこでもコミュニケーションが取れる環境は、まじめな性格の人にこそ強い負荷を与えます。その状態が長引けば、いずれエンゲージメントを低下させてしまうでしょう」

では、こうした弊害を防ぐためにどんな工夫が有効か。サハル教授が推奨するのは、「メールやチャットの通知をoffにすること」そして「スマホを目の届かない場所に置くこと」だ。

「脳のリソースの約40%は、『見ること』と『聞くこと』に使われています。スマホに入ったプッシュ通知が見えたり聞こえたりするだけでも、脳のリソースを奪われてしまう。初めから物理的に遠ざけて、情報が五感に入ってこない環境を整えるべきです」(サハル教授)

組織全体で「ルールとツール」の整備が不可欠

デバイスやプッシュ通知を物理的に遠ざけるのは、集中を維持するのに有効な方法だろう。しかし、その実践には高い壁がある。遠ざけている間にもひっきりなしに連絡がくるし、それを無視すれば「対応が遅い」「あの人は仕事ができない」とネガティブな評価につながるおそれがある。いくら集中して仕事を進められても、評価が落ちれば元も子もない。

いったいどうすればいいのか。田村氏は「働く個人任せではダメ。マネジメント層やリーダーがリーダーシップをとって、職場のルールを決めるべき」とアドバイスする。

「例えば当社では、毎週月曜日を“ノーミーティングデー”と定め、作業に集中する日としています。お互いに通知を無視していい曜日や時間帯を会社側が設定すると、皆安心して自分の仕事に没頭できます。ほかにも、『通知に即時に反応しなくても、評価には影響しないことを明言する』『ビデオ会議は必要最小限の人で。メールのCCに入れる感覚で人を巻き込まない』といったルール作りが考えられます」

コミュニケーションに関するルールを決めたら、それに合ったツールを導入することも大切だ。例えば使えるツールがチャットだけならば、対応の優先度を判断するために、常時チャットをチェックする必要が生じる。その負担を減らし、後からでも情報を確認できるツールが、Asanaだ。

「Asanaはすべての情報を仕事にひも付けて管理する、『ワークマネジメント』の思想に基づいたサービス。常時チャットツールに張り付いてチェックする必要がなくなります。マネジメント層がメンバーに『報・連・相』させて進捗確認するツールとは、根本的に異なるものです。メンバー、リーダー、経営層がそれぞれのレベルで可視性を持ち、自分の仕事を管理できます」と、田村氏は胸を張る。

Asanaは現在世界190カ国の、幅広い業種業態で使われている。それだけ普遍性を備えたツールであり、リモート化で「仕事のための仕事」が増えた会社にこそぴったりだ。自社のワークマネジメントのあり方を見直し、Asanaの標準的な管理方法に合わせて無駄をそぎ落とすきっかけになる。いずれにしても、リモートワークへの対応は働き方のDXを進める絶好の機会。経営者や管理職は、これを機に真の効率化を目指してほしい。

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