創業154年の老舗酒蔵を復活させたDXの光明 SaaSツールが、組織の潤滑油として機能

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先行き不透明な今の時代、組織にも個人にも「アジリティー」、つまり変化に素早く対応する力が求められている。ビジネスパーソンの働き方もその1つで、コロナ禍を機に働き方が変化した一方、「仕事のための仕事」の増加、従業員エンゲージメントの低下など、経営レベルに影響する問題がいくつも露呈した。こうした状況をチャンスに変えるには、どういう施策が有効なのか? 明治元(1868)年創業の老舗・金井酒造店の事例から、答えを探った。

DXの本質は「CX×EX×SX」である

「今、ビジネスパーソンの仕事のやり方も、新旧の手法が交じっている状態。この中で、自社や自分自身にとってのベストを探していかなければなりません」。こう語るのは、一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 准教授の藤川佳則氏だ。

一橋大学 大学院 国際企業戦略専攻 准教授の藤川佳則氏
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 准教授
藤川 佳則

「以前は、従来どおりのリアルオフィスを前提として、デジタルの要素を付け加えていく働き方が求められていました。現在はデジタルを前提としたうえで、対面コミュニケーションならではのよさをどう生み出し、生かしていくかを考える段階に入っています」

近年、半ば共通認識として「DX」という言葉が使われるようになった。藤川氏は「単にデジタルを導入しただけでは、真の変革は起こらない」と指摘する。

「DXはあくまでも手段。目的は新しい顧客体験(CX:Customer Experience)を実現することでしょう。CXに本気で取り組むと、組織の構造や意思決定、評価の仕組み、さらには働き方も変える必要が出てきます。つまり、企業変革(EX:Enterprise Transformation)が起こる。EXは組織内外と連携して進める必要があり、どのような社会を目指すのか、社会変革(SX:Social Transformation)の方向性に共鳴してくれる仲間を巻き込むリーダーシップが求められます。DX=CX×EX×SX、これがDXの本質といえるでしょう」

Asanaが、154年企業の業務管理を変えた

神奈川県秦野市唯一の酒蔵、金井酒造店。創業154年を迎え業績不振と後継者不在に悩んでいた同店が、2021年10月から始めたDXで見事に復活を遂げて注目を浴びている。これを支援したのがDXバイアウトファンド(※)のくじらキャピタルだ。同社の共同創業者で代表取締役の竹内真二氏はこう話す。

※DXバイアウトファンド:デジタル変革(DX)を中軸に据えたバイアウトファンドのこと。くじらキャピタルはこの1つで、DX支援により中小企業の価値創造や再成長、承継問題の解決などを支援している

くじらキャピタル 共同創業者 代表取締役 竹内 真二氏
くじらキャピタル 共同創業者 代表取締役
竹内 真二

「当社を創業した頃、日本社会には2つの危機感がありました。1つは日本企業のDXが絶望的に遅れていること。もう1つは、中堅・中小企業の深刻な後継者不足です。こうした課題にあえぐ経営者をを支援しようと、DXバイアウトファンドを創業しました。その投資先の1つが、金井酒造店だったんです」

竹内氏は、金井酒造店のDXを「顧客接点」「業務管理」「製造工程」の3領域で計画。ECサイトを立ち上げてD2C体制を構築し、SNSなど十数種類のツールを導入するなどの施策を実行し、顧客接点を増加していった。

「業務管理」においては、紙文化からの脱却が第一歩となった。「当時は、メールアドレスを全社で1つしか持っていませんでした。これでは、業務用SaaSも導入できない。そこで、社内に通信環境を整備し、社員一人ひとりに個別のメールアドレスを発行することから始めました」(竹内氏)。

これらと並行して、自社商品のリブランドやロゴ刷新をはじめ、さまざまなプロジェクトを進めていった。その中で、業務管理の改善のために導入したのがAsanaだ。

「ロゴの刷新一つ取っても、デザイン発注から撮影、印刷など数多くのタスクがあり、社内外との連携が必須。その進行管理のため、Asanaを導入しました」(竹内氏)

Asanaについて、金井酒造店の代表取締役社長(六代目蔵元)、佐野博之氏はこう語る。

「Asanaのいちばんの魅力は、複数のタスクの依存関係をドラッグ&ドロップで作れる点。誰でも簡単に進捗を把握し、ワークマネジメントができるようになりました。複数のプロジェクトを同時進行するうえで、欠かせない機能です」

金井酒造店の代表取締役社長(六代目蔵元)、佐野博之氏
金井酒造店 代表取締役社長(六代目蔵元)
佐野 博之

さらに「製造工程」でもIoTを導入。こうした全社的な改革により、業績はだんだんと上向いていった。佐野氏はこう振り返る。

「今回のDXプロジェクトを通して改めて感じたのは、組織の方向性を定めて意思統一するために『歯車をうまく回す』ことの重要さ。そのための潤滑油になるのが、Asanaなどのツールだと考えています。なお、Asanaの導入に際して、社内の摩擦はほぼ生じませんでした。今は、わからない点があれば都度確認しながら、活用レベルの底上げを進めています」

金井酒造のDX推進プロジェクトは、2022年版「中小企業白書」(中小企業庁)にも掲載され、注目を浴びている。竹内氏は、金井酒造のように経営陣と現場メンバーが足並みをそろえて前向きに取り組むことが重要だと指摘する。

「日本の組織のアジリティーを高めるために重要なのは、経営者の理解。もちろん、マネジメント層にもできることは多々あります。例えば予算内でデジタルツールを導入し、業務の進め方を変えてみること。こうした小さな成功例を蓄積することが、成功のカギとなるでしょう」(竹内氏)

働き方を変えることは、組織変革を伴う。企業には、単なる「省力化のためのデジタル活用」ではなく、組織のあり方を変えて新たな価値をもたらす、真の変革が求められている。Asanaのようなデジタルツールこそ、このドライブになるはずだ。

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