テーマ決めは、言葉の定義から
――「多くの学校で調べ学習の基礎ができていない」と話されていますね。何が問題なのでしょうか。
調べ方を教えないのに調べなさいと言っている点と、下調べをして材料を集めていないのに調べろと言ってしまう点です。材料を集めていないのに調べろ、というのは材料がないのにカレーを作れ、と言っているのと同じですよ。最初に調べ方の基本をきちんと指導するべきです。
無理なことをさせたらできないのは当たり前で、楽しくもありません。でも、やり方を教えてできたら子どもは快感でしょう。できないことをやらせてはいけません。
――調べ方の基本とは?
例えば、先生から「縄文時代について調べなさい」という課題が出されたとしましょう。縄文時代について、自分は何を調べるのかテーマを決めるには、まず下調べが必要ですよね。そこで最初にやらなければならないのは、縄文時代という言葉の定義を手に入れることです。定義は百科事典に書いてあるので、最初に調べる本は百科事典ということになりますね。定義を手に入れれば、自分でも理解できるし、ほかの人にも説明できるようになります。
その点、百科事典は有効です。百科事典がよいのは、短い言葉で的確に概要が書いてあるから。大抵5分で読めるので、それほど負担になりません。
ということは、百科事典の使い方も教えておかなければならないということですよね。百科事典は、キーワードがあいうえお順に並んでいるので、「背→つめ(小口)→柱(ページ上)」を見て探すと探せることを教えます。
見つからないときは索引巻を調べます。索引に「3ー111」とあったら、3巻の111ページにあるよ、という意味です。もし索引で見つからないときは、その単語はその百科事典には載っていないから、ほかの本を調べよう、ということになります。
こうして縄文時代について定義し、どういうものかがわかったら、次はその中から自分の興味を引く分野を探します。縄文土器や住居、被服、お葬式、釣りの仕方などがキーワードに上がってくるでしょう。例えば「縄文土器」を選んだとしたら、縄文土器とは何かについて再度百科事典で調べます。縄文時代から縄文土器と、テーマを絞り込んだわけです。
――調べ学習には、事前の準備が大事なんですね。テーマを設定するとき、気をつけることはありますか。
児童の年代に合ったテーマを設定すること。低学年ならば、「海」「動物」「食べ物」など、身近なテーマがいいでしょう。
海ならば「魚→サメ→サメの歯」、食べ物なら「食べ物→お菓子→チョコレート」などのようにテーマを絞り込んでいきます。ただし、商品名などを取り上げるとアウトです。そこから先の展開がなくなって、調べられなくなってしまうからです。もし児童が固有の商品を取り上げたのなら、先生が上手に軌道修正をしましょう。
あと、人類がわかっていないことはテーマとして扱わないこと。小学校低学年は発想が豊かですが、わかっていないことや解決できていないテーマは調べることができません。最初は、図書館にある本で調べられるテーマに限定するといいと思います。
小学生ならばここまでで十分ですが、中高生になったらテーマを決める前にもっと情報を集めましょう。インターネットを見たり専門書を調べたりして、たくさんの情報の中から自分なりのテーマを見つけ出します。ただし、インターネットの情報などで、正しいかどうか証明できないものはレポート(報告書)に使ってはいけません。
自分の「謎」をつくり出す
――テーマを決めたら、次のステップは?
テーマが決まったら、ミステリーカード7つ「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、いくつ、どうした」を参考に、自分で「謎」をつくります。
縄文土器だと、いつ誰がどこで作ったのか、なぜ作ったのか、誰が発見したのかなどが想定されます。サメの歯なら、いつどこに生えるのか、何でできているか。チョコレートならば、いつ作られたのか、材料は何か、どうやって作るのか、世界でどのくらい食べられているのか、日本ではどのくらい消費しているのか、それはお菓子業界の何%なのかなど、いくらでも広げられます。
「謎」を立てたら調査に入りますが、方法は複数あります。基本は学校の図書館でいいと思いますが、発展させるのなら詳しい人に聞いたり、博物館や美術館に行って調べたりしてもいいでしょう。公共の図書館には司書がいるので、調べたいことが載っている本を探してくれたり、いろいろ相談に乗ってくれたりします。
テーマと「謎」を考えるには、言葉をたくさん知っていると有利です。例えば、宇宙という大テーマを与えられて、星雲、アンドロメダと展開するには、その言葉を知らなければ設定できません。言葉を知っているかどうかで、調べ学習においての深度に雲泥の差がついてしまいます。
語彙を増やすためには、図鑑のようにいろいろな知識が詰め込まれた本を読むのが有効です。子どもは図鑑や自然科学、社会科学の本が好きですよね。雑多な知識を吸収して語彙を増やしていくので、図鑑が好きなように頭がセットされているからなんです。
バラバラに知識が入っても、子どもは記憶力がいいので、体系立ててつなげることができます。ですから低学年のうちは、図鑑、自然科学分野の本をたくさん読ませるといいですね。4年生以降は社会科学の本もお薦めです。もちろん物語も悪くはありませんが、語彙が増えることにはつながりません。
調べ学習のまとめ方のポイント
――調べた後のまとめで、注意するポイントはありますか。
調べ学習のまとめは、レポート(報告書)の作成になります。報告とは、わからないことを調べ、答えを見つけて人に知らせることと定義されます。口頭で伝えれば発表になるし、文字で書いたらレポート(報告書)になります。
レポート(報告書)には決まった書式があります。用紙はA4サイズを縦に使い、横書きで書きます。仕上げる際には、いくつか必須の記述があります。
まずは題名と所属、名前、書いた日付を記します。小学生だったら所属は「○○小学校○年○組」ですね。日付も重要です。例えば冥王星は、2006年に惑星から準惑星になりました。05年の日付なら、太陽系の惑星「9個」で間違いではありませんが、07年に9個と書いたらバツになります。科学は新たな発見によって事実が絶えず更新されているので、今正しいことが将来も正しいとは限らないのです。
そして「謎」と答え、つまりテーマと調査の結果を書きます。出典として、調査するときに使った資料も記しましょう。簡単に1ページでまとめるのであれば、こんな感じです。
もう少し詳細にまとめるのであれば、1ページ目に題名と所属、名前、日付、2ページ目に目次を入れます。この目次は、最後に書きましょう。3ページ目から序論(はじめに)、本論、結論(おわりに)と続きます。序論には「全体のテーマ」「動機」「自分のテーマ」の3つを必ず入れます。最後に参考文献を出典として書き出します。
出典は著者名、二重カギカッコの中に本の題名、出版社、コンマ、出版年、コンマ、使用したページの順に書きます。参考文献は異なる著者の本を2冊以上列挙しましょう。著者1人だと、その話だけを鵜呑みにして裏付けを取らなかったということになるからです。論文は参考文献が複数ないと、信用されません。仕上げに目次を書いて、最後に用紙の左上をホチキスで留めて完成です。
小学生ならば、調べた内容を写すことができれば十分です。無理をさせてはいけません。自分でできたという感動を味わわせてあげることが大切。低学年のうちは小さなレポート(報告書)からトライさせてみましょう。子どもたち一人ひとりが、「縄文時代」についてそれぞれのテーマで調べたレポート(報告書)が出来上がると、1クラス全体で見れば縄文時代の立派なレポート(報告書)が仕上がります。中学年以上になったら、改ざんや捏造をしてはいけないことも教えましょう。
――報告文のほかに、小学生が覚えておきたい文章はありますか。
あとは意見文、説明文、感想文、全部で4種類を読めて書けるようになれば十分だと思います。子どもは大人が思っている以上に語彙力があったり、いろいろなことを知っていたりします。基本を教えたら、子どもの興味関心に沿って自由に調べたり、書かせたりしてあげましょう。
(文:柿崎明子、注記のない写真:つむぎ / PIXTA)