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言語感覚に注意せよ 「生前退位」の怪

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  • 岡本 隆司 早稲田大学教育・総合科学学術院教授

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小欄第89回で「元号」の問題を書いてみて、どうもひっかかるところが残った。「生前退位」である。何度聞いても違和感があることばであって、駄文では通じやすいだろうと思って使ってはみたものの、どうにもなじまない。

短く「退位」「譲位」といっては、どうしていけないのか。位を退くのも、譲るのも、生前の在位中・存命中でなくてはかなわない。生前に退位するのはあたりまえ、以前の小欄でも書いた「京都府京都市」と同じくらい、くどい重複である。

使いたくなる言い分は、わからないわけではない。現行は一世一元制、天皇の地位も終身になっていて、退位・譲位は制度上ありえないから、特別だというニュアンスをきわだたせるためなのは、容易に想像がつく。

「君位は終身制ではない」

しかしそれならそれで、もっといい言い回し、表現はないのであろうか。そんな工夫も努力もしないで、言い出したら止まらないし、止めようともしない。

しかも、事情のまったく異なる外国を引き合いに出して、そのことばを説明しようとさえする。それはあまりにも独善的ではないだろうか。

たとえば時事用語辞典には、以下のように書く。

「オランダ王室では、生前退位は特段珍しいことではない。2013年1月には、オランダのベアトリクス女王が2013年4月をもって王位を王太子ウィレムに譲位すると発表した。これは生前退位に相当する。ちなみに先代の女王ユリアナも生前退位している。」

オランダは日本とちがって、君位は終身制ではない、と書けばすむことではないか。「生前退位」というフレーズに固執するから、かえってややこしくなる。

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