もう随分昔の話になるが、1990年代の後半に筆者は日本の長期不況の原因が貯蓄過剰にあると考えていた(この考えは、その頃総合月刊誌に寄稿している)。生産年齢人口はすでに減り始めていたので、投資収益率の低い日本で投資が減るのは避けがたい。その一方で、高齢化の割に貯蓄率が下がらないのが問題だという見方だった。米連邦準備制度理事会のバーナンキ前議長が理事時代に唱えていた「世界的貯蓄過剰論」の日本版と考えてもよい。
さて、一昨年のサマーズ元米財務長官の問題提起以来、「長期停滞論」が世界的に注目を集めている。これは自然利子率がマイナスになってしまう可能性を考えるものだ。その原因はさまざまあるが、その一つとして高齢化と人口減少が指摘されることが多い。確かに、自然利子率≒潜在成長率と考えれば、人口が減れば自然利子率は負になりうる(クルーグマン教授の日本に関する指摘)。しかし、事前的な貯蓄と投資が一致する水準が自然利子率だと考えると、高齢化で貯蓄が減るので、事はそう簡単ではない。
この点に関連して、筆者は最近よく話題になる米ブラウン大学のエガートソン、メーロトラ両教授の「長期停滞のモデル」という論文を読んでみた。この論文のエッセンスは、若者、中年、老人の3世代重複モデルで負の自然利子率を導くことにある。仕掛けは極めて単純で、(1)若者は所得がないので借金をする、(2)老人は過去の貯金を取り崩して、現在の消費を賄う。その一方で、(3)中年は若者時代の借金を返し、老人期に備えるため猛烈に貯蓄に励む、というものだ。当然ながら、中年の所得シェアが大きくなれば貯蓄過剰となり、自然利子率は下がる(負にもなる)。同論文では、財政出動や高めのインフレ目標が有効といった政策的処方箋が注目されることが多いが、これは上記モデルに名目賃金の硬直性を加えて出てくる結果だ。
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