今、法学研究者とともに、非常時における対応に関して研究を行っている。その共同研究で私は、非常時における行動指針や規範となるべき危機対応マニュアルの役割について、福島第一原発事故を事例として研究に取り組んできた。
原発施設の危機対応マニュアルは事故時運転操作手順書(手順書)と呼ばれている。手順書は、事象ベース、徴候ベース、シビアアクシデントの三つに分かれている。
事象ベースの手順書は事故原因が特定できるケースを、シビアアクシデントの手順書は炉心損傷に至ったケースをそれぞれ対象としている。
一方、徴候ベースの手順書は、複数の原因が考えられる事故で事態が進行しているケースにおいて、原子炉で実際に起きている現象の程度に応じて手順が定められている。
この徴候ベースの手順書がユニークなのは、「危機封じ込め」一辺倒のマニュアルでない点である。大きな危機は是が非でも封じ込める必要があるが、小さな危機は施設内外に開放して「ガス抜きする」という発想も兼ね備えている。
具体的には、圧力容器にある炉心の冷却が思うようにいかない場合には、安全弁で蒸気を格納容器底部にあるプール(圧力抑制室プール)に逃がして、圧力容器の圧力を低下させる。そうすると、海水も使える低圧ポンプを稼働させることができ、炉心に注水し持続的に冷却することができる。こうした一連の措置は減圧注水と呼ばれている。
減圧注水を進めても、格納容器の圧力がなお高まる場合は、圧力抑制室プールで放射性物質を十分に濾過したうえで外部にベント(放出)する。
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