端末がまだ届いていない?

コロナ禍でGIGAスクール構想が前倒しされ、全国の小中学校で1人に1台の端末が配備されてから約半年が経過した。うまく使えている学校も増えているが、家庭や学校でのトラブルも増えている。

では、どのような問題が起きているのか。トレンドマイクロは2021年6月、小学校1年生から中学校3年生までの子どもを持つ保護者342人と、国公私立の小・中学校教員331人を対象にした「GIGAスクールにおけるセキュリティ実態調査」を行い、673人から回答を得た。

この調査の結果でまず意外だったのは、端末の配備状況だ。文部科学省の「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備(端末)の進捗状況について(確定値)」では、全自治体等のうち、96.5 %に当たる1748自治体等が2020年度内に納品を完了する見込みとされている。

ところがトレンドマイクロの調査では、学校から端末を受け取ったかという問いに対し、保護者の58.8%、実に6割近くが「受け取っていない」、また教員も29.3%が「受け取っていない」と回答している。文科省の数値とは、大きくかけ離れた数字だ。

保護者に端末を受け取ったことを伝えていない子どもがいる可能性はあるが、教員が自分の児童生徒に端末を渡したかどうかはさすがに把握しているはずである。そのため自治体には端末が納品されていても、その先の学校や子どもにはまだ届いていない状況が考えられる。

約半数の子どもが端末を家に持ち帰っていない

学校から端末を受け取ったと回答した保護者141人、教員234人には、その端末を子ども(児童生徒)がどれくらいの頻度で自宅に持ち帰っているかも聞いている。

これに対し、保護者は「毎日(1週間に5回)持ち帰ってくる」が22.7%、「1週間に3~4回」が1.4%。そのほか「1カ月に1回以下」の頻度でしか持ち帰らないという回答なども含めて、持ち帰っている子どもの合計は58.2%であった。残りの41.8%の保護者は「一度も持ち帰っていない」と答えている。

一方、教員では「毎日(1週間に5回)」が11.5%、「1週間に3~4回」が5.6%で、「1カ月に1回以下」の頻度でしか持ち帰っていないという回答なども含めて、持ち帰っている子どもの合計は42.3%である。「一度も持ち帰っていない」は57.7%で、この回答が最も多くなっている。

保護者と教員の回答には若干の乖離があるが、少なくとも半数ほどの子どもは端末をまったく持ち帰っていないことがわかる。

文科省は積極的に持ち帰ることを推奨しているが、中には持ち帰ることを禁止しているという学校もある。自宅への持ち帰りを認める学校は徐々に増えているようだが、家庭に通信環境が整っていない場合はどうするのか、また端末をどう使わせるのか、トラブルが起きないようどう指導すべきかなど、学校現場にも準備期間が必要であり、持ち帰りが日常になるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

端末の持ち帰りをしていない学校が多いのは、自宅での利用に対する不安が大きな要因となっていると考えられる。中でも、端末を使うことで子どもが犯罪やトラブルに巻き込まれることを心配する声が多いが、この調査でも保護者の69.0%、教員の84.0%がそうしたトラブルを心配していることが明らかになった。

具体的には「アカウント(IDとパスワード)情報を盗まれる・悪用される(アカウント乗っ取り、不正アクセスの被害者となる)」という回答をした保護者、教員がともに最も多かった。ほかにも「ネット上での見知らぬ人との出会い」「不正アプリ(ウイルス)への感染」「成人向けや暴力、違法行為など、不適切なWebサイトの閲覧」「成人向けや暴力、違法行為など、不適切な動画コンテンツの視聴」「ネットの長時間利用による依存や、学業、健康への悪影響」「フィッシング詐欺サイトなど不正サイトへの接続」などのトラブルを心配する回答が目立った。

保護者や教員の心配が、実際に起きている

では実際、子どもたちはどんなトラブルを経験しているのか。

この調査で最も多かった回答は「アカウント(IDとパスワード)情報を盗まれる・悪用される(アカウント乗っ取り、不正アクセスの被害者となる)」と「ネットの長時間利用による依存や、学業、健康への悪影響」で、いずれも9.2%の保護者が挙げている。これに続いて多かったのは、「不正アプリ(ウイルス)への感染」(7.8%)、「アカウント(IDとパスワード)情報を盗む・悪用する(アカウント乗っ取り、不正アクセスの加害者となる)」(7.1%)、「架空請求の被害」(6.4%)などであった。

一方、教員では「学習以外の用途での端末利用(ゲームや動画視聴など)」という回答が最も多く、12.8%。以下、「フィッシング詐欺サイトなど不正サイトへの接続」(12.0%)、「アカウント(IDとパスワード)情報を盗まれる・悪用される(アカウント乗っ取り、不正アクセスの被害者となる)」(11.1%)、「アカウント(IDとパスワード)情報を盗む・悪用する(アカウント乗っ取り、不正アクセスの加害者となる)」(11.1%)、「友人とのネットを介したやり取りで子ども自身が傷ついてしまう(友人関係の悪化や炎上含む被害者となる)」(7.7%)、「友人とのネットを介したやり取りで子どもが友人を傷つけてしまう(友人関係の悪化や炎上含む加害者となる)」(7.7%)となっている。

保護者や教員が心配していたことがある程度、実際に起きてしまっていることがわかる。

もちろん、こうしたことを防ぐため、子どもに配備された端末には技術的、あるいは教育的な対策が施されている。技術的な対策についての設問では、保護者が挙げた回答の上位3項目は「成人向けや暴力、違法行為など、不適切なWebサイトの閲覧を規制(URL・Webフィルタリング)するソフトやサービスの利用」(26.2%)、「成人向けや暴力、違法行為など、不適切な動画コンテンツの視聴を規制するソフトやサービスの利用」(22.7%)、「パスワード管理ソフトやサービスの利用」(18.4%)となっている。

これに対して教員の回答では、上位2項目はいずれも保護者と同じだったが、3番目に多かったのは「アプリのインストールや利用を制限するソフトやサービスの利用」で、25.6%となっている。

こうした回答とともに注目したいのは、「知らない、わからない」という回答で、保護者では実に6割近い58.9%、教員でも29.9%がそう答えている。何も起きていなければいいのだが、実際にはトラブルが起きていても保護者や教員が「知らない、わからない」という実態があるのだとすれば少し怖い。

対策を施していない学校もある?

さらに、安心・安全に利用するためにどのような教育的対策を行っているかという設問に対しては、最も多くの保護者(33.3%)が「アプリを勝手にインストールしないように教える」と回答している。これに次いで多い回答は、「ID・パスワードは自分だけが覚えておくものであり、他人に教えてはいけないことを教える」(31.9%)、「自身や友人の個人情報(写真、動画、氏名、住所など)をむやみに公開したり、知らない人に送付をしてはいけないことを教える」(30.5%)などとなっている。「とくになし」と回答した保護者は29.1%だった。

一方、教員では学校として「ID・パスワードは自分だけが覚えておくものであり、他人に教えてはいけないことを教える」が最も多く45.3%で、次いで「成人向けや暴力、違法行為など、不適切なWebサイトを閲覧してはいけないことを教える」(43.2%)、「他人のID・パスワードを勝手に利用して、他人のアカウントにログインしてはいけないことを教える」(38.9%)となっている。端末の配備に際しては、どの学校でも何らかの教育的対策は行っているはずだが、この設問に対して15.8%の教員が「とくになし」と答えている。

安心・安全に利用するために必要なことは何か?

1人1台端末の活用を円滑に進めていくには、保護者と教員の間で安心・安全に利用できる環境を相互に確認し、共有することが不可欠だ。

そのポイントを4つ挙げたうえで、自身が理解しているものについて聞いた設問に対しては保護者(57.4%)、教員(59.8%)いずれも「児童生徒が端末を扱う際のルール(パスワードの取り扱いや使用時間等)」という回答が最も多かった。しかし反面では、端末を安心・安全に利用するために「児童生徒が端末を扱う際のルール」が必要であるということを保護者の42.6%、教員の40.2%が理解していないことになる。

またこの調査では、子どもが安心・安全に端末を利用できる環境を整えるために、自分自身に何が必要かを聞いている。これに対して保護者は「子どもとのコミュニケーション(学校が取り決めたルールや留意事項の確認・共有、家庭での持ち帰り端末の利用に関するルール作りなど)」(46.2%)、「学校の管理内容や運用ルールに関する理解」(41.8%)、「一般的なネットリテラシーや情報モラルに関する理解」(37.7%)という回答が多かった。

一方、教員は「GIGAスクール構想の目的や内容についての理解」(47.4%)、「学校の管理内容や運用ルールに関する理解」(47.4%)、「一般的なネットリテラシーや情報モラルに関する理解」(45.9%)だった。

ちなみにこの設問に対して教員の17.2%は「とくになし」と答えている。自分自身に必要なことが何もないというのは、もうすべて完璧にこなしているのか、関心がないのか、気になるところだ。安心・安全に子どもたちが端末を利用できる環境は、すべての基盤になる。子どもたち自身はもちろん、保護者、教員も関心を持って徐々にリテラシーを高めていきたいところだ。

(文:崎谷武彦、注記のない写真はiStock)