町田第五小、3年間で公立先端校へ躍進の理由 協働学習ツールは「対話の深化」を加速する

「対話の深化」においてこそ、ICTが力を発揮する
EdTechを導入して個別最適化学習に取り組み、問題解決型の授業に教育用クラウドシステム「G Suite for Education」(以下、 G Suite)を活用するなど、公立小学校の中でもICT教育が進む東京都町田市立町田第五小学校(以下、町五)。しかし、校長の五十嵐俊子氏が赴任した2017年当時は、コンピューター室にパソコンが40台あるのみだった。

五十嵐氏は、20年以上にわたり、学校と行政、国のICTに関する委員など、さまざまな立場からICT教育を推進してきた。とくに前任校はほぼ1人1台の端末があったため、町五の端末環境に驚いたという。しかし五十嵐氏は、町五での教育に大きな可能性を感じていた。
「町五は対話で学びを深める研究をしてきた学校。実は『対話の深化』においてこそ、ICTが生きてきます。ICTは単に便利になるとか集中力がつくとか、そんなレベルのものではありません。子ども同士のコミュニケーションにおいて大きな力を発揮するのです」
20年以上も前の実践で得た驚きの成果とは?
五十嵐氏が対話におけるICTの有用性に気づいたのは、20年以上も前のことだ。当時、理科の専科教員をしていた小学校で、6年生が卒業研究に取り組むことになった。各自で課題を設定し、実験や調査をして結論をまとめる活動だ。「他者の発表を『聞いて終わり』にせず、皆で共有して学びを深めるにはどうしたらいいのかと考えました」と、五十嵐氏は振り返る。
発表内容を紙にまとめて壁に貼っても意味がないように思えた。悩んだ果てに使ってみたのが、シャープの協働学習ソフト「スタディノート」だ。資料を作れるほか、コメントも入力できる。たまたまの縁で借りたものだったが、このツールにより驚くような実践ができた。まず、児童全員の研究成果を自由に閲覧してコメントをつけられるようにしたところ、児童たちは皆、休み時間もずっとほかの児童の研究成果に見入っていたという。
「協働学習ツールは、自分が気になった箇所をじっくり何度も見ることができる。コメントをつけ合う中で、人がやったことを否定せずにまずは『すばらしい』と評価する『情報モラル』も自然と身に付きます」と、五十嵐氏。さらにコメントも、単なる意見交換ではなくなっていったという。
「土による発芽率の違いをテーマにした研究に対し、ほかの児童から『発芽率の違いは土によるものではないのでは』と根底を覆すような意見が出たときは本当に感動しました」

東京都小学校教員、指導主事、日野市ICT活用教育推進室長を経て日野市立平山小学校長、2017年度より現職の町田市立町田第五小学校長。文部科学省研究開発学校を2度経験し、防災教育の教科化に続いて、現在は、EdTechを活用した個別最適化のカリキュラム開発を手がけている。国のICTに関わる主な委員等の経歴は、教育の情報化に関する手引、学校教育の情報化に関する懇談会、学びのイノベーション推進協議会等。その他、第6・7期中教審委員、高大接続システム改革会議委員。現在は、内閣府の青少年インターネット環境の整備等に関する検討会の委員
このようにICTは協働的な学びと相性がよく、対話を深める。そのため、元気のいい児童だけでなく、じっくり考えるタイプの児童も大事にできる授業が可能だ。児童は自分の考えをしっかり表現でき、他者の意見の違いやよさがわかるようになる。自分の考えも人からの影響によってさらにいいものになる――そんな学びの可能性に気づいた五十嵐氏は、ICT教育に力を入れ始めた。前任校の日野市立平山小学校での実践は、2014年度の「情報科促進貢献個人等表彰」で文部科学大臣賞を受賞。ここでの経験が、対話を大切にする町五で生かせると思ったという。