WEOYはアメリカ代表のキーウェルに
「型破り」を辞書で引くと、「一般的、常識的な型や方法にはまらないこと。また、そのようなやり方であるさま」(デジタル大辞泉 2019年4月現在/小学館)とある。この言葉に付いて回る指摘として、型破りな人が「型」を身に付けていない場合はただの非常識だ、型なしだというものがある。型が大事なものであるという主張だ。それが正しいと考えたときに、ビジネスに当てはめるとどうなるだろうか。起業して事業を軌道に乗せるためにはどのような「型」が必要なのだろうか。MBA、コミュニケーション能力、先見性、リーダーシップ……、それら全部だろうか?

19年のWEOYに選ばれたのは、アップテイクテクノロジーズ(アメリカ)を率いるブラッド・キーウェル。キーウェルは6社を起業した後、14年にアップテイクテクノロジーズを創業した。予測分析を得意とする同社は、センサーが発するデータを基に、機器の故障など不測の事態が発生する可能性を事前に顧客に伝えるという事業で急成長し、企業価値は20億米ドルを超える。「ダブルユニコーン※」に到達した最速の企業でもある。
WEOY受賞後のスピーチで、キーウェルは次のように語った。
「アントレプレナーをアントレプレナーたらしめる理由は、やりたいことをやることではなく、『やらなければならないこと』をやることにある」
昨今、社会課題の解決をコア事業に据えた起業家を「ソーシャルアントレプレナー」と呼ぶが、それに近い。ノルウェー代表のペール・グリーグも当てはまるだろう。
1992年に創業したグリーグシーフードASAを世界有数のサーモン養殖企業に育て上げているが、ビジネスの軸に据えているのはサステイナビリティーだ。
「養殖は、海、つまりパブリックエリアで行いますから、持続可能な環境にしていくことが大事です。これはCSR活動として地球にいいことをしようという文脈ではなく、ビジネスとサステナビリティは一体になっています。人口がこのまま増えると、食料の問題も起きるかもしれません。動物性タンパク質を効率的に摂取するには、サーモンが優れています。1キロの餌をあげれば1キロ増えますから」
エシカルアプローチの重要性
「やらなければならないこと」という意味では、イタリア代表のソニア・ボンフィグリオリも共通する。大型建設機器からフォークリフトまで、幅広い産業用ギアボックスを手がけるボンフィグリオリ・リドゥットリの2代目社長となったのは2010年のこと。
だが、この年の業績はリーマンショックから続く不況を受けて4000万ユーロの赤字と、最悪のタイミングだった。創業者である父が死去したことによる事業承継だったこともあり、周りからは「会社を売ったほうがいい」と真剣にアドバイスされたという。
「私には男の子が2人いますが、会社のことを3番目の子どもと思うほど愛着がありましたし、父が創業した会社を簡単に売却することはできませんでした。それに、社長としての仕事も、最初こそ信頼を勝ち取るために時間はかかりましたが、父の功績もあって、それほど難しくありませんでした。父は独裁者のように振る舞うことは決してなかったし、ミスを許容してくれる懐の広さがありましたから」
95年に同社初となる海外工場をインドに設立しようとしていたときのこと。それはインド国内の法律が変わるタイミングでもあり、リスクも高いがチャンスも大きい投資だった。それを主導したのがボンフィグリオリだった。
「父が聞いたのは『本当にいいのか』という確認でした。父は私を信頼してくれて、背中を押してくれた。最初は思うようにいきませんでしたが、いい人材に巡り合うことができて、それから事業が好転しました。今では3つの工場があります」
ボンフィグリオリがインタビューの中で繰り返していたのが、「エシカル(倫理的)アプローチ」という言葉だ。多様性を受け入れるための素養、そしてマネジャーの素養としてこの言葉の重要性を説く。それは創業者である父が常々語っていたことであり、社の根幹を成す考え方だという。
「力のない人間をトップにすると、組織が壊れてしまいます。当社は家族経営ですが、会社のトップに立つ人間は能力と経験を持ち、倫理的アプローチができる人でないと務まりません。私には息子2人、おいが2人いますが、それらの素養がなければ会社を継がせることはありません」
人生のウィナーになるために
「従業員に払う給与は、コストでもないし投資とも少し違う。オーナー経営者の『義務』とでも言えばいいんでしょうか」
ケニアで製鉄をメイン事業とするデヴキグループを率いるナレンドラ・ラヴァルは穏やかな表情でそう語る。もともとインドで生まれたラヴァルは、祭司としてケニアに渡った。結婚を機に寺院から出て始めた小さい製鉄所が、デヴキグループのスタートだった。祭司だったことが影響しているのか、その言葉は哲学的に響く。前述の言葉の後は、次のように続く。
「例えば、すぐそこのブランドショップに行けば500ドルの財布が売られていますが、その財布を自分の満足のために買うのと、ケニアの従業員に500ドル払うのとではまったく意味合いが違います。物心つかないときから靴を履いている人と、靴を買えない時代を過ごしている人とでは、靴に対する価値の感じ方が違うのと同じです」
同じお金やものでも、与えられた人によって捉え方が異なるということだ。ラヴァルは、人間の根源的欲求や心理を理解し、それらに沿ってグループをまとめ上げている。その結果、デヴキグループの従業員のモチベーションは高く、工場でストライキが起きたことはないという。ケニアでは工場でストライキが起きることは日常茶飯事だというにもかかわらず。
「従業員たちは、会社も工場も自分たちのものだと思っているからです。しっかりと働いて、もし望むならあなたの子どももグループで働けるということを伝えていますし、子どもたちの教育費も会社が出しています」
それだけでなく、事業の拡大に伴いラヴァルは個人で寄付を行い、今では8つの学校をケニアの地方で運営している。貧しい子ども向けのそれらの学校では、教育、食事、医療が無償で受けられるのだという。16年にはケニア国内の納税額トップになった。
「型破り」に話を戻そう。
WEOYに輝いたキーウェルの最初のビジネスは、6歳のときに始めたグリーティングカードの販売だったという。6歳のキーウェル少年にビジネスの型があるはずもないが、だからグリーティングカード事業はスケールしなかったのだろうか。
ケニアのラヴァルが小さな製鉄所を始めたときに、ビジネスの型などなかったはずだ。それでも、デヴキグループは来年には従業員1万人に到達し、まだ拡大する見込みだという。
ビジネスにおける型とは、アントレプレナー個人の「やらなければならないこと」、アントレプレナーとしての「譲れない使命」なのではないだろうか。そしてそれを愚直に続けることで初めて「型」を破り、ブレークスルーすることができる。モナコで話を聞いた4人のアントレプレナーの言葉からはそんな仮説が成り立つ。
ラヴァルにWEOYの発表について、つまりウィナーになる自信を聞いたときの答えが印象的だ。

「私は、勝つために来たのではなくて『成功』するためにモナコに来ています。成功というのは、より多くの人の人生をいい方向に変えることです。明日ウィナーになったとしても、誰の人生にも影響を与えなかったら意味がないんです。逆にウィナーになれなくても、より多くの人の人生を変えたら成功ですよ」
ラヴァルにとって「やらなければならないこと」は、多くの人の人生を変えることだ。きっとそれは創業から変わっていないのだろう。そしてその数は「型破り」と形容できるほどの人数に達している。
(敬称略)