32歳高年収女子は、なぜ結婚できないのか 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<1>
しかし、ふと同じテーブルの仲間たちを見渡すと、やはり自分より格下に思える女たちのほとんどが既婚者だった。皆おっとりと落ち着いた妻となり、結婚式を余裕で楽しんでいる。
杏子のように卑屈な思いを抱いているような女はいない。杏子はどうしようもない敗北感に包まれ、さらに気分は沈んだ。
結婚は女の逃げ道?結婚願望のない女が持つ選民意識
「はぁ……。」
杏子はうっかり、大きな溜息をついてしまった。
「分かるわよ。結婚式なんて本当に疲れるわよね。それに年下男と社内婚なんて笑っちゃう。あの性格の悪い朋子も、相当焦ってたんでしょうね。まぁ、やっぱり私たちとは価値観が違うってことね。」
みずきがシャンパンを飲みながら、サラっと言った。結婚式後、同じく独身仲間のみずきと二人でけやき坂の麓近くにある『1967』に移動し飲み直していた。杏子の溜息は全く違う角度から解釈されたようだが、この女に弁解する気はなかった。
みずきも朋子と同じく大学時代からの友人で、彼女は外資系の戦略コンサルティング会社に勤めている。みずきはとにかく仕事人間だ。その辺のエリート男より自分はずっと優秀だと自負しており、結婚願望は全くない。そして彼女は、杏子を同じ価値観を持った仲間だと思い込んでいる。
「ま、まぁね。朋子も結局は結婚という無難な道を選んじゃったのね。」
本心とは裏腹に、杏子はみずきと同様に結婚に興味のない女を装ってしまう。
「20代の頃の理想なんて忘れちゃったのかしら。みんな30代になると、無難な男と逃げるように結婚するわよねぇ。きっと、他に楽しみがないのね。自分の人生にある程度の限界を感じると、女って男に頼ったり子供産んだりしたくなるものなのかしら。」