定額聴き放題は「音楽=タダ」論を覆せるか 激アツ配信市場に立ちはだかる「課金」の壁

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ただ、サービス開始から半年近くが過ぎ、課題も浮き彫りになっている。マネタイズ(収益化)の難しさだ。最大勢力とされるアップルですら、課金ユーザーは30万〜40万程度といわれる。販促費なども重くのしかかり、AWAは初年度に赤字を見込んでいる。

課金ユーザーが伸び悩む一因は、無料動画メディア「YouTube」の存在。YouTubeでは、販促用の動画が無料で配信され、多くの新曲が楽しめる。許諾なしに動画メディアの音源を再生するアプリまで出てきている。

結果として、「音楽はタダ」という認識が若い世代を中心に広まり、有料で音楽を聴く層は年々減少している。LINEは無料のお試し期間終了後に、ネット上で「ケチ」「なぜ有料なんだ」と批判されたほどだ。

配信楽曲の少なさも課金ユーザー拡大のネックとなっている。CD販売への影響などを懸念し、楽曲提供を渋る人気アーティストもいる。聴きたい曲がなければ、ユーザーは「レンタルやYouTubeで十分」となるだろう。

ユニバーサルミュージックの島田和大執行役員は「定額配信の環境が整い、2016年は市場形成に向けた勝負になる。品質や機能でYouTubeと異なる価値を訴求することが重要だ」と語る。

"筋肉質"なユーザーを増やせ

どうすれば定額配信サービスを浸透させられるのか。「販促で簡単に増やせるライトユーザーではなく、頻繁に使う“筋肉質”なユーザーを増やすことを重視している」。こう話すのは、AWAの小野哲太郎取締役である。

ヘビーユーザーをつかむべく、アプリの反応やプレイリストの作成など、操作性の向上に注力。エイベックスの松浦勝人社長とサイバーエージェントの藤田晋社長も、戦略会議に毎週参加し、改善の指示を飛ばす。今後はユーザーごとにアルゴリズムを割り当て、リコメンド(好みに合った情報の提供)するなど、サービスを磨く構えだ。

LINEもインターフェースの改善やPC版の提供、データ通信量の節減を進めてきた。最近は洋楽を拡充させ、コアなファン向けに海外のインディーズ楽曲を増やしている。12月開始の動画配信サービス「LINEライブ」では番組で新譜を紹介したり、出演したアーティストがプレイリストを公開するなど、サービス間の連携も急ぐ。

「ヒットが生まれる仕掛けを作らないとダメ。自社サービスとの連携強化など、プラットフォーム事業者としての違いを出す」と、LINEミュージックの舛田淳社長は一段の改善に意欲を見せる。ユーザーの意識を変革し、定額配信を根付かせることができるか。音楽業界は生みの苦しみに直面している。

「週刊東洋経済」2016年1月16日号<12日発売>「核心リポート03」を転載)

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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