「大学院では狭い世界で流体力学をやっていて、ホンダに入ってからも変わった人は多いけれど、似たような思考を持った人で固まっていました。ご飯も同じような人と食べます。それが、経営者もいれば、弁護士も医者も営業の人もいて。『こういう世界もあるんだ』と刺激を受けました」
入学当初から起業を目指していたわけではない。しかし、多様な仕事をする人と話すうちに、いつか自分の技術を使って事業を始められたら、という思いが芽生えていった。食への関心はもっと古くからあった。祖母は地元で郷土料理を研究しており、是本さんも子どもの頃から食べ物に興味を持っていた。
ホンダ入社後の00年頃、地域のコミュニティセンターで開かれたナチュラルチーズの基礎講座に参加する。講師の村山重信氏の話は面白く、毎回、テーマに合わせたフランスのチーズが登場した。講座の後にはワインで乾杯することもあった。
「ナチュラルチーズって、こんなにおいしいものなんだなって、そこで知りました」
04年にはチーズに関する資格を取得した。ただ、この頃は食べて楽しむのが中心。「人のチーズを食べて、ああでもない、こうでもないと言う」趣味の段階だったという。
チーズの科学に技術者として引き込まれた
食べる側から作る側へと関心が移ったのは、12年。チーズの品質評価を学ぶ講座で、講師を務めていたチーズ職人の宮嶋望氏に出会ったことが大きかった。なぜこの工程を踏むと、こういう状態になるのか。なぜ、この作業をしてはいけないのか。科学に基づく説明は、技術者だった是本さんの好奇心を刺激した。
「チーズの科学に興味を持つようになりました。この人にいろいろ習いたい、と」
ホンダの夏休みや冬休みには10日ほどのまとまった休みがあった。その時間を使って宮嶋氏の元に製造の研修に通い、学んだことを家で試す。休日の過ごし方が少しずつ変わっていった。それでも、まだチーズを仕事にするつもりはなかった。


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