また、他社との違いが分かりやすいのが、スタンプカードの扱いだ。塚田農場や博多劇場がアプリに軸足を移す中、大黒は出勤簿型のスタンプカードをあえて紙のまま続けている。
会社の説明によれば、紙にすることで客とスタッフ、客同士の共通の話題になり、先述のトライアングル戦略を強める狙いがあるという。LINEを使ったモバイルオーダーも導入しており、客の来店頻度や注文傾向に合わせた接客に生かしている。デジタルも使いつつ、会話のきっかけになる部分は、あえて紙のまま残している。
施策の一つひとつは他社でも真似できる。ただ、創業から約18年かけて積み重ねてきた分だけ、大黒には簡単には追いつけないように思えた。
会社の発表によれば、同じ価格帯の上場企業として、鳥貴族や串カツ田中とはよく比べられるという。そのうえで、両社が持っていない「接近戦」こそが最大の武器だと語っている。
10坪の立ち飲みから「外食トップ10」へ
一度きりの来店で終わらせず、通ってくれる客を一人ずつ積み上げていく。それでいて、複数の店舗に足を運ばせる……大黒のビジネスは、居酒屋でありながら、契約者を積み上げるストック型のビジネスに近い。
もちろん、それを叶えるのは簡単なことではない。通常の飲食店より、スタッフ個人に求められるハードルは高いだろう。加えて、スタッフが辞めたり、店の空気が変わったりすれば、常連は離れていく。だからこそ、長期的な人材戦略も重要になってくる。
ただ、勢いは否定できない。同社は「100店舗以上の出店」、さらに「外食トップ10」を目指すと宣言してきた。さらには2030年に150店舗、将来的には大黒300店舗と魚椿300店舗の計600店舗を目標に掲げる。1日の乗降客数が16万人以上の駅は全国に163駅あり、1駅に5店舗ずつ出せば815店舗分の余地があると同社は試算している。
課題は、名古屋で磨いた「居場所づくり」が、全国でも同じように通用するかどうかだろう。常連客がゼロから始まる新しいエリアの1店舗目は、立ち上がりに時間がかかる。店が増えれば、それだけ多くのスタッフが必要になる。常連が「あの人に会いたい」と思えるスタッフを、店の数だけ育てられるかどうかが、これからの勝負になる。
10坪の立ち飲み屋から、本当に外食トップ10が生まれるのか。大黒は東京の蒲田や高円寺にも店を出している。地元の東京に帰ったときに、あの距離感があるのか確かめてみたい。


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