『an・anを後ろから開かせる女』の異名を持つ林真理子さん。当時のエッセイには、バブル期のセール争奪戦における抱腹絶倒のエピソードがたびたび登場した。稀代のエッセイストが何度もエッセイのネタにするほど、セールにおける女たちの戦いの熱量は桁外れだったのである。
現代でも、一部のブランドではセールの際に店頭で整理券が配られたり、入場制限が行われたりするなど、争奪戦になることはある。しかし、セールの主戦場はオンライン(ECサイト)だ。人気オンラインショップのサーバーダウンや、カートに入れた瞬間に「売り切れ」と表示される画面の絶望感は、当時、ブランドに殺到した女性たちに代わる、現代の風物詩といえるかもしれない。
ハウスマヌカンとショップ店員
話を戻すと、夏季セール中だけのつもりが、由紀さんはそのままフランドルでアルバイトを続けることになった。
当時のDCブランドのショップ店員は「ハウスマヌカン」と呼ばれた。ハウスマヌカンは、英語のハウス(家)とマヌカン(モデル)を組み合わせた和製英語である。
おしゃれで最先端な「憧れの職業」としてもてはやされた「ハウスマヌカン」。現代のショップ店員とはどう違うのだろうか。
「全然違います」とやや前のめりに言い切った由紀さん。由紀さんによれば、ファストファッションの店員は「服を畳んでるだけの人」だという。一方、当時のハウスマヌカンは、顧客に「着ている服の上から下まで全部欲しい」と思わせる存在だった。
また、当時はハウスマヌカンから薦められるまま、全身のコーディネートをそろえることが多かった。
顧客たちは、ブランドや服だけでなく、そのハウスマヌカン自身のファンになった。人気のハウスマヌカンの動向は、ブランドを越えて話題になったという。「京都のある人気ブランドのハウスマヌカンは、売上がダントツで、転勤することが業界全体の話題になりました」。


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