ひとり暮らしの住まいを訪ね、部屋に表れるその人らしい生き方や価値観を紹介する「だから、ひとり暮らし」。今回訪ねたのは、作家の阿刀田高さん(91)だ。
阿刀田さんはショートショートや短編小説の名手として、1979年に『ナポレオン狂』で直木賞を受賞し、以降も半世紀近くにわたって第一線で活躍してきた。30歳で結婚した妻の慶子さんが、2023年に介護施設へ入所して以降、東京都内の自宅でひとり暮らしをしている。
約60年に及ぶ夫婦生活を経て、90代で営むひとり暮らし。食事、買い物、家事、そして老いていく身体――。そんな日常をひとりで引き受けるなか、2025年には慶子さんを見送った。長く連れ添った妻を失い、ひとりで老境を生きるとはどういうことなのか。阿刀田さんの今を訪ねた。
約60年連れ添った伴侶と暮らした家で、今はひとり
都内の閑静な住宅街にある阿刀田さんの自宅の中に入ると、木をふんだんに使った空間が目に入る。無垢材の床に、木目のトーンをそろえた家具。広いリビングの一角には、対面式のキッチンがある。
コの字型のキッチンは調理スペースが広く、造作の吊戸棚や引き出しなど、収納もたっぷり。料理を作ること、家族で食卓を囲むこと。この家が建てられたとき、そんな時間が大切に考えられていたことが伝わってくる。
かつて、この台所を主に切り盛りしていたのは慶子さんだった。現役時代の阿刀田さんは、「家事などほとんどしませんでした」と振り返る。


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