しかし今、毎日このキッチンに立つのは阿刀田さんだ。一日三食を欠かさず、何を食べるか考え、材料を確かめ、食べ終えれば食器を洗う。
「今は、動作が鈍くなったせいもありますが、一日中、朝から晩まで家事のことを考えているに近いところがありますね。何を食べようか、どう用意しようか。インスタントラーメンだって、それなりに準備しなければならない。食べたら食器も洗わなければなりません」(阿刀田さん 以下の発言すべて)
家事をする人にとっては日常のことではあるが、その集積される手間について、老年のひとり暮らしで初めて気づいたそうだ。「主婦というのは、一日中こういうことを考えていたんですね」と、阿刀田さんは感慨深げに言った。
「ブロッコリーは、自分で見て選びたい」
三食を自分で用意するとなれば、食材の買い物も欠かせない。普段は家族などに頼むことが多いが、それでも、自分で買いに行きたいものがあるという。
「近くに息子が住んでいるので、買い物を頼めますが、やっぱり自分で行かないとダメだなと思うことはあります。たとえば息子なら、ブロッコリーは手前に置いてあるものをそのまま買う。私はちゃんと見て選びます。
それからチーズも、自分がいつも食べている好みのものがある。ただ『チーズ』と頼んだだけでは、何を買ってくるかわからない。マグロのぶつを食べてみようと思うときも、その日に自分で買いに行かなければならない。さほどのことではないけれど、自分で行かないとだめなものもあります」


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