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ライフ #ルポ 血と縁 生殖医療--新しい家族を求めて

「キャリアか出産か」で迷う女性たちの新しい生き方…未婚のまま出産、子どもを育てる「選択的シングルマザー」の道

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選択的シングルマザーという「新しい生き方」を選ぶ女性たち(写真:PIXTA)

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男女カップルを対象とした体外受精や顕微授精、凍結胚移植などの「生殖補助医療(ART)」が急速に普及している。2023年には全出生児の約12%、8万5048人がARTで誕生(日本産科婦人科学会)。少子化対策で、22年に医療保険が適用されたことが急増の背景にある。
一方、保険が適用されない生殖医療も行われている。例えば、夫が無精子症で第三者から提供された精子を妻の子宮に注入する「非配偶者間人工授精(AID)」や、提供精子・提供卵子を使った体外受精、子宮欠損の妻と夫の配偶子を体外受精させて親族(妻の母、姉妹)が代理母となる「代理出産」などが挙げられる。すでに、AIDで生まれた子どもの数は2万人に達したともいう。
だが、こうした生殖医療は法的に未整備な領域が広く、制度的には曖昧な状態に置かれている。生まれてきた子どもの「出自を知る権利」や、告知の葛藤、親子関係を維持する難しさなども横たわる。私たちは生殖医療とどう向き合っていけばいいのか。
著書『炎と水 中村哲と名もなき人たちの旅』で第48回 講談社 本田靖春ノンフィクション賞を受賞した作家、山岡淳一郎氏によるデジタル特集【ルポ 血と縁 生殖医療――新しい家族を求めて】の第3回は、キャリアか出産かで迷いながら、自らの意志で未婚のまま出産して子どもを育てる「選択的シングルマザー」になる道を選んだ女性たちの生き方に迫る。

フェイスブック(現・メタ)の最高執行責任者(COO)だったシェリル・サンドバーグ氏は、2015年4月24日、ブルームバーグテレビのインタビューで、働く女性の人生設計に大きな影響を与える発言をした。

その頃、同社は社員の「卵子凍結」費用を最大2万ドルまで保険で補助する福利厚生を導入し、注目を集めていた。サンドバーグ氏は、補助のきっかけががんを患う若い女性社員からの訴えだったと回想し、次のように述べた。

〈彼女が私のところに来て、「(がんの)治療を受けることになったのですが、卵子を凍結保存しない限り子どもを産めなくなってしまうんです。でも、私にはその費用を払う余裕がないのに、うちの医療保険ではカバーされないんです」と言ったんです〉(TIME 15年4月25日【Sheryl Sandberg Explains Why Facebook Covers Egg-Freezing)

さらにサンドバーグ氏は、こう言葉を継いだ。

〈私は人事部長とこの件について話し合い、「これは絶対に(企業保険で)カバーすべきだ」と言いました。そして私たちは顔を見合わせて、「なぜ、がんを患う女性だけを対象にするのか、もっと広くカバーすべきではないのか」と考えたのです〉(同前)

卵子凍結は、生殖医療をドラスティックに変える可能性を秘めていた。

通常、卵子凍結は2~3週間のサイクルで行われる。まず、事前検査で卵巣の状態を確かめ、治療の計画を立てる。卵巣刺激の飲み薬や注射で一度に多くの卵子を育て、排卵する直前に麻酔をして卵子を採取する。ここで痛みが生じることがある。さらに採った卵子の中から成熟したものを選び、マイナス196℃の液体窒素で急速冷凍して専用タンクに保管することになる。

女性が若い頃に卵子を採って凍結しておけば、将来、解凍して男性の精子と体外受精させ、その受精卵を子宮に移植し、妊娠、出産へと進める。キャリアを積みたい時期に卵子を凍結すれば、親になる準備が整うまで妊娠の可能性を残すことができる。がんを患っても、卵子を凍結し、がん治療を受けて寛解に至ったら、卵子を解凍して妊娠へのプロセスをたどれる。

女性の20~30代はキャリアの伸長期であり、同時に妊娠適齢期でもある。「キャリアか出産か」と悩んでいた女性たちにとって、卵子凍結への補助は福音だった。

優秀な女性人材の獲得競争を繰り広げるIT業界は、「ジェンダー平等」や「多様性」の推進を掲げて、次々と同様の福利厚生を取り入れた。しかし一方で、〈卵子凍結の企業による費用負担は、女性に雇用主へ魂を売り渡させ、昇進の約束と引き換えに出産適齢期を犠牲にさせるための策略〉(NBC NEWS 2014年10月14日【Perk Up: Facebook and Apple Now Pay for Women to Freeze Eggs】)と批判の声もあがる。

そもそも企業は柔軟な働き方や、子育てしやすい職場環境の整備を優先すべきであり、テクノロジーによって女性の体に負担を強いるのは問題のすり替えだ、卵子を凍結しても妊娠できるとは限らない、といった意見も出た。こうして卵子凍結は、さまざま議論を巻き起こしながら、新しい家族への扉を開いた……。

M&A、企業再生のエキスパート

サンドバーグ氏のインタビューが公開された翌年の16年、日本人女性、小泉涼子さん(仮名)は自身の卵子を凍結した。M&Aや企業再生を主軸とする外資系企業でバリバリ働く小泉さんは、当時37歳。日本では、生殖医学会が卵子凍結について〈(卵子の)採取時の年齢は、40歳以上は推奨できない。また凍結保存した未受精卵子等の使用時の年齢は、45歳以上は推奨できない〉(「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」2013年)と示していた。

小泉さんは、卵子採取のタイムリミットまであと3年というタイミングで卵子凍結をした理由をこう語る。

「アメリカのエリートの中では卵子凍結は珍しいことではなく、わたしの周りでも、もうやったよとか、やってみようかなという人がかなりいました。一種のブームでしたね。結婚は、50歳、60歳になってもしようと思えばできる。でも高齢になれば、自然妊娠で子どもを産める可能性は低くなります。だったらまずは、元気なうちに卵子を凍結しておこう、と思った。仕事はクロスボーダーでハードですが、裁量労働制で時間のやり繰りはつきます。医療機関に通って卵子を凍結しました」

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