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ライフ # ピアニスト牛田智大の今とこれから

なぜ音楽は社会の縮図だと言われるのか? そして室内楽は「小さなオーケストラ」ではない 牛田智大氏インタビュー①

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ピアニスト・牛田智大氏が室内楽プロジェクトに込めた思いとは……(撮影:今井康一)
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――音楽を聴く側としても、作曲家の理解に重点を置くと面白く聴けるようになりますか。

聴き手にとっての魅力で言うと、室内楽の面白さは複雑さにあると思っていて。

例えば、オーケストラは、大人数で合わせるじゃないですか。アンサンブル技術の面では、これは極論かもしれないけれども、大人数で合わせるということは、大人数で合わせられるよう単純な解釈をするということです。たくさんの人がいても合わせられる解釈、単純化されたフレージング(息継ぎなどによる音楽の区切り)で、みんなで歩み寄って音楽をやりましょうというのが基本的な考え方なんですね。

他方、室内楽では、複数人の音楽が1つのアイデアに向かって集約されるのではなく、異なるアイデアがつねに共存することが本質としてあるんです。「1つの音楽」に向かうために誰かが犠牲になるというのではなく、お互いがお互いの音楽観を持ったまま、あるところでは譲ったり、あるところではぶつかったりしながら音楽を作っていく。そのように、異なる考え方が同時に存在する複雑さが、室内楽の大きな魅力なのかなと思います。

今、オーケストラという大編成との比較の話をしましたが、最小の編成であるソロとの違いも大きい。一人で弾いてるときは、自由にいろんなことができるけれど、個人の限られた想像力の中でしか音楽を作れない。音楽家個人の経験の中でしか演奏できない。

それが室内楽では、独自のバックグラウンド、音楽観、技術を持つ音楽家が集まって互いにぶつかり合うことで、もっと複雑で生気に満ちた音楽ができる。

楽譜にある情報は、「時間」を含んでいる

――出演者全員がソリストとして活動する演奏家という点に着目すると、室内楽の演奏会は豪華に思えます。一方で今のお話のような、「複数人の音楽、異なるアイデアの共存」という視点はありませんでした。

室内楽というと、「小さなオーケストラ」みたいに見られがちでしょう。人数が少ない分、音楽的にも小さくまとまるというような。でも実際には、演奏者の人数は少ないほうが複雑なことができる側面もある。

「音楽とは、社会の縮図だ」というふうに言われることがあるけれど、どんな音楽も基本的には矛盾の中にあるんです。たくさんの情報があって、たくさんの音符がある。いろんな和声の要素があって、いろんな要素が作品の中に含まれている。進んでいく時間の中で、その整合性を取らなければいけない。クラシックだったら、楽譜に記された多くの情報を処理しながら音を出し、音楽を進めていくのですが、楽譜に書かれた音符1つひとつ、指示1つひとつは、全部時間を含んでいる。楽譜にある情報は、基本的にそれを実現するために時間が必要になるんですね。

だから、情報が多くなればなるほどそれをこなすにはより多くの時間がかかる。しかし、音楽にはテンポという基準があって、定められたテンポの枠内で進んでいかなければいけない。そして多くの場合、楽譜の中にある情報は、作品ごとに決められた枠、指定されたテンポで進行する枠の中には入りきらないようなんです。

必然的に、何かを削ったり、優先順位をつけたりしながら、枠の中に収める作業をすることになる。楽譜を読む作業には、そういった面がある。そんなふうに、音楽を作っていく中で、必ずままならなさやせめぎ合いが生じるから、音楽は社会の縮図だといわれる。

社会にはいろんな考え方の人がいるから、全員にとって理想的な社会は実現しない。個人個人が何かを妥協したり、犠牲にしたりしながら、他の人と共存しようとする。人間が何か行動するにはお金がかかるけど、それは無限にあるものではない。そういうものと同じ考え方が、音楽の演奏にも適用できると思っています。

そのような意味で室内楽には、より自由な感覚があります。異なる考え方をせめぎ合わせることで、より良いものを探していくみたいな。一人だけではできないことが実現できるけれど、大人数によるデメリットは少ないのも室内楽の面白さです。

国内屈指の人気を誇るピアニストの牛田智大氏(26)。「東洋経済オンライン」会員限定のロングインタビュー「ピアニスト牛田智大の今とこれから」では、2026年11月にツアーを開催する室内楽プロジェクトへの意欲、自身のキャリアに対する考え、今後の展望など幅広く話を聞いています。
2回目:主張と尊重の間で"中間点"を探す…演奏家同士が異なる音楽観をぶつけ合う室内楽の面白さ(※無料公開中)
3回目:12歳でのデビューは"与えられた使命"、成人した自分は当時とは「違うブランド」だと思っている
4回目:クラシック音楽家としての役目は「つないでいくこと」、常にお客さんとの会話を大事にしたい

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