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ビジネス #製薬 逆風下の勝ち筋

ノバルティス日本法人社長「革新的な医薬品、薬価でもっと評価を」…魅力あふれる日本市場に投資していく

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ノバルティス日本法人のジョンポール・プリシーノ社長(撮影:今祥雄)
アメリカのMFN(最恵国待遇)政策の影響で、薬価の低い日本に海外の新薬が入って来なくなるかもしれない――。そんな言説が今、製薬業界内で飛び交っている。アメリカ市場で巨額の収益を上げるメガファーマ(巨大製薬企業)は、日本市場をどう評価し、今後、どのような戦略をとっていくのか。特集【製薬 逆風下の勝ち筋】の本記事では、メガファーマの一角であるスイス・ノバルティス社の日本法人社長、ジョンポール・プリシーノ氏に聞いた。

――ノバルティスは、稀少疾患やこれまで治療法が少なかったような疾患向けに医薬品の開発を集中させる戦略を採っています。こうした革新的医薬品の日本での評価のありかたについて、思うところを聞かせてください。
 
ノバルティスは、日本でファースト・イン・クラスの(新しい作用機序や治療コンセプトを持つ革新的な)医薬品をたくさん出してきた。ただ、日本はほかの先進国と比べて革新的な医薬品の成長率がそれほど高くない。発売時に、新薬の革新性や新規性が正当に評価された薬価であってほしい。

さらに、特許期間中には一度認められた価値(薬価)が守られる必要がある。というのも、日本には他国にはない仕組みがある。それは「持続可能性価格調整」(旧・市場拡大再算定の特例)だ。製品が一定の売り上げ基準を超えると、薬価が引き下げられる。対して多くの国では、特許期間が終わったあとにイノベーションの評価が見直されて、薬価が引き下がっていく。
 
革新的な医薬品の価値は、薬価によって語られることが多い。日本がここにしっかり手を打てば、海外からの投資先としての魅力はさらに増すだろう。基礎研究や臨床研究、情報提供活動、製造、供給といったさまざまな側面にも、良い影響を及ぼすことができるはずだ。

日本政府にとっても製薬業界にとっても重要なのは、施策の持続可能性だ。イノベーションが評価されれば、(製薬会社は)その分をしっかりと次の投資サイクルに回すことができる。

――医薬品の多くが、アメリカより日本の方が安いです。MFN政策の下、製薬各社が主力とするアメリカ市場での薬価が日本の薬価を参照して引き下げられないよう、新薬の日本発売が見送られたり、発売が遅れたりするのではないか、という観測があります。
 
MFNへの対応は非常に複雑な問題だが、「骨太の方針2026」に明記されたように、日本政府はアメリカのMFN政策に対して、しっかりコミットしていくと聞いている。当社、そして業界としても大変勇気づけられているところだ。

もっとも、MFNによって実際にどんなインパクトがあるのかについては引き続き精査していく必要がある。とくに患者の医薬品へのアクセスという点で、だ。

日本政府と業界、そして医療機関が密に協力することで、正しい方向性、正しい施策を見つけていくことができるだろう。当社としては引き続き、革新的な新薬の発売を見送ったり、遅らせたりすることはなく、日本の患者に届けたいと思っている。この優先事項は変わらない。

――とはいえ他社では、日本国内で承認を取った医薬品の薬価が決まらず、発売が保留されている医薬品が出てきています。MFNの影響だと言われています。アメリカ市場が売り上げの4割超を占めるノバルティスでも、アメリカのビジネスに影響が出るとなれば同様の選択をする可能性はあるのでしょうか。

他社については言及できないし、私はグローバルの観点で話すことができない。ただ、今のところそういったインパクトが出ているという事実はない。MFNについては、継続的にモニタリングしていくことが重要だ。

日本市場は魅力的

――日本事業は3年連続で増収です。

2025年の売上高は3927億円と、前年比で10%の成長を遂げることができた。とくに25年以降に発売した新製品、たとえば慢性骨髄性白血病治療薬、前立腺がん治療薬などが全体の伸びを牽引している。がん領域以外でも、循環器や神経領域の既存品が順調に伸びている。

――ノバルティスは注力する「4地域」をアメリカ、中国、ドイツ、日本としています。冒頭のように革新的な医薬品の評価に課題のある日本をここに入れたのは?
 
日本の市場環境を踏まえて決めた。日本市場の魅力の1つは、大学や研究機関、医療システムによる非常に強固な科学的基盤があることだ。さらに国民皆保険制度に支えられたすばらしい医療環境があることも強みだ。付け加えるなら、高齢化が進み、アンメットメディカルニーズ(満たされていない医療上の必要性)の高い領域があることも大きい。

つまり日本は、私たちのイノベーションを届けることで患者さんに恩恵をもたらせる市場といえる。事実、これまでも細胞治療、遺伝子治療、(がんの放射性治療の1つ)放射性リガンド療法、核酸医薬品といったファーストインクラスの薬を日本に届けてきた。

こうした革新的な薬を届けるには、相応の投資が必要だ。当社は日本に投資をし続けることを決め、そして実行している。

――具体的に、どのような投資をしているのですか。

たとえば、23年には放射線リガンド療法の製品の国内製造へ、兵庫県・篠山工場へ1億㌦の投資を発表した。この治療法で使う放射性同位元素は、(放射性を出す能力の)半減期がとても短い。国内で製造することで、流通を安定させて早く患者に届けられるようになることを期待している。現地雇用をすることで地域への経済効果を生んだり、さまざまなノウハウや技術を日本に移転できるというメリットもある。
 
25年には「クリニカル トランスレーショナルリサーチ ハブ」を日本に持ってきて、研究員を50人増員した。人に薬剤を初めて問うよする試験を含め、日本の早期臨床試験(人に薬剤を投与する臨床試験の第1、2相段階)を拡大し、アカデミアなどと企業が連携する「橋渡し研究」を強化することが目的だ。

ただ、当社がこうした投資をし続けるためには、革新的な医薬品がしっかり評価される環境がないといけない。繰り返すが、政府の施策が発売時や特許期間中のイノベーションの価値を損なうようなものになったり、MFNに対しては対処しないということであれば、(業界全体として)こうした投資のチャンスは少し下がってくると思うし、ドラッグラグ、ドラッグロスの可能性も上がるだろう。今、日本は非常に大切な時にいる。

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