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ビジネス #第一三共 「抗がん剤帝国」への苦闘

〈乳がん治療が激変〉「エンハーツ」で患者が取り戻した日常 「自分が病気であることを忘れさせる」・・・副作用管理に壁も

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第一三共が創製した抗がん剤「エンハーツ」。製品売上高が約7000億円に達する超大型薬だ(左写真:第一三共、右写真:今井康一撮影)

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「これは、おそらくがんです」

アンティークのアクセサリーなどを販売する個人事業主の高久蒼子さん(仮名、60代)は2011年、近隣の乳腺クリニックの診察室で医師からそう告げられた。3カ月ほど前から下着に血が付着するようになり、胸と脇の下にしこりもあった。

乳腺クリニックの医師はすぐに紹介状を書いてくれ、転院先の昭和医科大学病院で乳がんと診断された。乳がんにはいくつかのタイプがあり、高久さんの場合は「HER2陽性」。がんの表面にHER2というタンパク質が過剰に発現しているタイプで、このタンパク質が細胞の増殖を促すため、進行が早いといわれてきた。

診断を受けた高久さんは、抗がん剤によって腫瘍を小さくしてから、12年に手術で乳房とリンパ節を摘出。ただ、数年後には肝臓と肺への転移が見つかった。さらに骨へも転移していた。以来、1種類の抗がん剤を投与しては、体に耐性ができて効き目が悪くなり、別の抗がん剤を試す、というサイクルを繰り返した。使った抗がん剤の中には、突然嘔吐してしまうほどの吐き気を催したり、40度を超えるような高熱を出したり、指先が腫れて出血するなど、つらい副作用を伴うものもあった。

「病院を出たら、病気のことを忘れる」

そんな高久さんが24年秋、本人いわく「過去イチ楽」な抗がん剤と出会う。第一三共が創製し、英アストラゼネカと共同で開発する「エンハーツ」だ。

投与するのは3週間に1回。外来で30分ほどかけて点滴を受ける。エンハーツを使い始めてから、肝臓の腫瘍は小さくなり、骨への転移も広がりを抑えられている。

24年からエンハーツによる治療を始めた高久蒼子さん(仮名)は、少しずつ日常を取り戻しつつある(写真:編集部撮影)

エンハーツはほかの抗がん剤と比べて吐き気が長く続く傾向があるが、高久さんの場合は制吐剤を服用することでうまく抑えられている。眠気やだるさが数日続くことはあっても、気分が悪くなることはない。治療を始めてから毛髪は8割ほど抜けたが、しばらくすると再び生えてきた。ほかの抗がん剤では、治療を終えるまで抜けたままだったという。

「病院を出たら、自分が病気であることを忘れています」。高久さんはそう言う。長年がんと共に生きてきた高久さんだからこそたどり着いた境地とも言えるが、薬によってそれが可能になっている側面はある。

仕事も続けている。商品のオンライン販売に加え、月に何度かは屋外で開かれる蚤の市などのイベントに出店し、接客をこなす。肝臓への転移がわかってからやめていたお酒も、外食のときなどに少しずつ飲むようになった。高久さんの主治医である昭和医科大学病院の酒井瞳医師は「今のところ長く続けられていて、日常を順調に送れている印象だ」と語る。

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