国内最大級の鶏卵産地である茨城県では、産卵率が例年より1〜2割低下した。首都圏向けの卵の供給にも影響が及んだ。乳牛も、気温が25℃を超えるあたりから乳量が落ち始めるとされる。冷涼な北海道でさえ、1頭当たりの乳量が1〜2割減る農家が相次いだ。
同様にコメも深刻だ。いわゆる「令和の米騒動」は、買いだめや流通の目詰まりだけで起きたわけではない。大きな背景の一つは、23年の酷暑だった。コメは、実が成熟する「登熟期(とうじゅくき)」に夜間気温が下がらないと品質が落ちやすい。夜も高温だと、稲は呼吸によってエネルギーを消費し続ける。その結果、米粒にデンプンが十分に蓄積されず、粒が白く濁る「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」が増える。
新潟県産コシヒカリでは、一等米比率が例年の8割超から数%まで急落した。統計の収穫量の値だけを見れば、極端な不作には映らないかもしれない。しかし、主食用として出荷できる高品質なコメは大きく減る。これが翌年の品薄や価格高騰につながった。皮肉なのは、コシヒカリがもともと冷害に強い品種として育成されたことだ。
いま日本では、「寒さに強い品種」で「暑さ」と戦っている。その矛盾が、ブランド米の供給不安という形で表面化している。
果物や野菜も例外ではない。夜間の高温は、巨峰やピオーネの色づきを妨げる。リンゴでは日焼け果、温州ミカンでは浮皮(果皮と果肉の間に隙間ができ、品質が落ちる現象)、北海道産タマネギでは日焼けや小玉化が報告されている。「この地域といえば、この農産物」という産地ブランドが、気候変動で揺らぎ始めている。
失われる、鮮度
見落とされやすいのが、収穫後の変化だ。
野菜や果物は、収穫した後も呼吸を続けている。品温を10℃下げると呼吸量はおおむね半分になるとされ、収穫後にどれだけ速く冷やせるかが鮮度を左右する。逆に言えば、産地で冷却が遅れた青果物は、その後に丁寧な温度管理をしても、劣化を完全には止められない。


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