だが町長になった山本さんは、子どもの頃に見ていた活気のある町の景色と、今との落差を突きつけられることになる。
「100%反対」を覆した町長の説明
2024年4月、山本さんは笠置町長に就任。
町では毎日午後7時半、各家庭に置かれた受信機から防災無線が流れる。内容は、町の事業の周知、災害時の情報発信など多岐にわたるが、この頃、機材の老朽化が問題となっていた。受信機を新しいものに更新するとなれば1台当たり3万〜4万円がかかる計算だった。
「この費用は今後の町にとって本当に必要かと考えましたね」
そこで着任した秋に着手したのが、町民全世帯552世帯へのタブレット配布案だった。国の補助事業として、防災無線受信機の代わりにタブレットで確認できるシステムを立案した。事業費は総額7585万8823円。このうち3792万6000円を国の補助で賄い、町の負担は半分に抑えた。
受信機の全戸更新に見積もられた費用と比べると、1.7〜2.3倍に抑えられる計算だ。しかし国からは「配布すること自体が目的だろう」と指摘され、配布条件として住民アンケートの実施を求められた。
「高価なものを配布して、人気取りをしているだけのように思われたんでしょう」
ところが、住民アンケート結果は、ほぼ100%が「いらない」だった。デジタル機器になじみのない高齢者も多く、住民が望んでいない政策だと受け止められた。
それでも山本さんは諦めなかった。集会所を回り、何度も説明会を重ねた。
「実は、タブレット端末の本当の狙いはコミュニケーションを取る手段にしたいと考えていたんです」
山本さんは就任して間もなく感じたのは、役場と住民の距離だったからだ。
「今の役場職員はほとんど町外出身者で。昔は誰か知ってる人がいるから住民さんも役場に顔出しに行ったけど、今はもう誰も知らないから行かない、そう聞いてたんですよね」
住民と役場の「顔の見える関係」が薄くなれば、困りごとや要望も届きにくくなると考えたのだ。特に声を上げるのが苦手な住民ほど、気づかれないまま取り残されてしまう。そこで山本さんが立て直そうとしたのは、役場から住民の元へ出向く仕組みだった。


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