立ち食いそばと、町のそば屋の間には圧倒的な断絶があります。しかし、町のそば屋が矜持(きょうじ)を持ったまま、立ち食いという形式を取った。それがゆで太郎なのです。
東京では「ゆで太郎=立ち食いそば」というイメージはまだ根強いんです。「立ち食いそば」という言葉が持つ「まあそういうものだろう」という期待値の低さを入口にしているともいえます。その結果、実際に食べたときの驚きがある。それが私たちの狙いなのです。
利益より満足度を売る
私がゆで太郎をやろうと思ったそもそもの動機は、仕事の合間に腹いっぱい食べられる店がないという問題に、頻繁に直面したことでした。
ほっかほっか亭の営業マン時代の話です。
地方出張で外回りをしているときは、食事に常に頭を悩ませていました。郊外のロードサイドに行けば確かに店はあります。しかし、牛丼、ラーメン、コンビニ、この3つしかないんです。仕事の時間も一定ではありませんから、弁当を持ち歩く習慣もありません。となると外食するしかないのですが、本当に選択肢が少なかった。
私はいつも「そばが食べたいな」と思っていました。町中でそば屋を見つけても、薄暗くてやっているかどうかわかりません。猫が中で寝ていたりしてのどかなのはいいのですが、めったに客が来ないのか湯も沸かしていない。注文してから料理が出てくるまで20分以上かかります。
ようやく出てきても、量が少ない。当時は30代で食欲も旺盛でしたから当然大盛りを食べたいし、丼も付けたい。でもそれができる店がなかった。腹いっぱい食べられるそば屋が郊外にあったら絶対売れるとずっと思っていました。
ゆで太郎の看板メニューといえる「満腹セット」は、そのときの思いが出発点です。稼ぐために作ったメニューではありません。そば店で腹いっぱいになるにはどんなメニューを提供すれば喜んでもらえるだろう、という思想を体現したものです。

