ところが学校生活では、四六時中化学式を扱い、白衣を着て実験室にこもる毎日。化学をさらに細分化して学ぶ日々を3年続けたところで、「これはちょっと違うぞ」と気がついた。
本来、化学に関心を持ったのは、自然が好きだったからだ。もっと幅広い自然科学を学び、「野山に分け入っていきたい」という気持ちが次第に強くなった。
そんなときに、登山家のお父さんがいる寮の友人から、木曽駒ヶ岳への登山に誘われた。
筋金入りの登山家だった友人のお父さんは、登山口からではなく、街中から歩きはじめ、野宿をしながら進むというマニアックな登山を敢行。植物や土のにおい、景色や風も、すべてが歩きながら変化していく様子を全身で浴びた。
「常に変化してるっていう意味では、ずっと飽きない時間が流れてるわけですよ。普段白衣を着て実験室にいるだけでは感じられないものが、山には全てあると思いました」
寮に戻ると、担任のもとに退学届を持って行った。
「化学工学から、森林科学に進路を変えたいんです!」
毎朝のように山に登ってから大学へ
高専にいると、やりたいことは実現できない。ならば、ここにいるのがもったいない。グーグルアースで山の場所を確認すると、山がたくさんあるのは長野だった。すぐにでも高い山がある長野に行き、山に触れていたいと考えたのだ。
「自分の方向性が山だとわかったときに、進路を変えてでも行かなきゃ、と思ったんです。結果的には親や周りに迷惑をかけているので、退学届を出したことは誇ってはいないんですけど、当時は、とにかく自分が考えたことを信じて行動するしかないと思っていました」
高専の友人たちは、「山を好きになったなら夢中になっちゃうのは仕方ないよね。頑張って」と応援してくれた。しかし両親は「せっかく高専に入れたのに?」と呆れ、担任からは「高専を卒業してからでも遅くないのでは」と説得された。結局、担任の「化学工学を学んだことが、この先進んでいく山や自然の世界でもいつかきっと役に立つ」という言葉を信じて、高専を卒業する。
とはいえ、心も体も山に向かっていた17歳の松見さんにとって、2年間は長かった。ひたすら山について調べ、山にかかわって生きるための戦略を練った。卒業後は、入る研究室も研究テーマも決めた上で、中央アルプスのふもとにある信州大学農学部の3年生に編入。毎朝のように山に登ってから授業に行き、山に関わる授業ばかりを受けながら、早々に就職活動をして木材の会社への内定を決めた。


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