褒め合う文化のなかで、「自分を貶すのをやめなさい」というメッセージが、先生の口から出たとき、Kさんは初めて、成績以外の軸で自分を評価するという感覚に触れたのである。
先生の言葉を機に、Kさんの調子は上がり始め、その中学で学年1位を取る。成績と同時にメンタルも回復し、友達と仲良くなり、勉強を教えるようにもなった。
自分ができるようになったことを、他人に教えることで再確認する――その循環が、彼の自信を少しずつ組み直していった。
一方で、弟のほうは違う道を歩んでいた。
両親は弟を、兄が行けなかったレベルの進学校に入れた。親の教育リソースは、完全に弟に傾いていた。だが、弟はその学校でうまくいかなくなった。兄が「ダメ」と見捨てられた学校のレベルとは違う環境に放り込まれた弟は、そこで適応できずに沈んでいく。
「あんたはもうダメね」と切り捨てられた兄は、中堅校で1番になった。一方で「お前にかかっている」と投資された弟は、進学校でうまくいかなかった。
中堅校で1番→東大に合格
高校に入っても、Kさんの成績は安定していた。そしてそのまま東大に合格する。
中堅中高一貫校からの東大合格は決して珍しいことではないが、同校から理系で現役合格するケースは、例年多くはなかった。Kさんは、そこを抜けた。
「俺の方が頭いいんだから、俺は東大に行くんだ」――何度も反芻した同級生の言葉が蘇る。
あのいじめっ子が、いまどこにいるかは分からない。第1志望の中高一貫校に合格した彼が、その後東大に行ったかどうかも確認できていない。
弟は、東大を受けて落ちた。

