数字の意味も、127がどのくらい高いのかも分からないまま、「すごい」という言葉だけが、幼い彼の中に残った。
両親は彼を私立小学校に進学させた。トップ中学への登龍門として、幼少期からの英才ルートに乗せたのだ。だが、このルートに乗った瞬間から、Kさんの物語は想定とはまったく違う方向に転がり始める。
私立小学校で落ちこぼれる
入学後すぐに、Kさんは壁にぶつかった。
この私立小学校では、小学校の段階からすでに国語・算数・英語の科目ごとに能力別クラス編成が行われていた。子どもたちは、成績に応じて「上のクラス」「中のクラス」「下のクラス」に振り分けられる。
Kさんは、上のクラスに入れなかった。中のクラスと下のクラスを行き来する日々が始まる。IQ127の「天才」だったはずが、小学校入学と同時に、学年の下位層に分類されてしまった。
当事者にとって、この落差は激しかった。塾では「すごい頭がいい」と言われていた自分が、学校では「できない子」のグループにいる。テストの点数は、隣のクラスの同級生と比べれば明らかに劣った。
上のクラスにいる同級生たちは、Kさんを見下した。
テストの答案を見せつけてくる。難癖をつけてくる。「お前、これも分かんないの?」と馬鹿にしてくる。そのなかのひとりは、ことあるごとにこう言ったという。
「俺の方が頭いいんだから、俺は東大に行くんだ」
子どもが口にする「東大」という言葉は、まだ実体を持たない。だが、その発言がKさんに与えた傷は実体がありすぎるほどだった。毎日、自分より成績のいい同級生に「俺は東大に行く」と言われ続ける。「お前は頭が悪いから、お前には無理」という暗黙のメッセージが、その言葉の裏に常に添えられていた。
Kさんのマインドは、じわじわと削られていった。勉強への意欲がしぼみ、受験への自信が崩れていく。6年間の私立小学校生活は、彼にとって「自分は頭が悪いのだ」と刷り込まれる期間だった。

