パンツァネッラと同じく、硬いパンを湿らせて食べる「フリゼッラ」という料理もある。ただしこちらは、硬くなってしまったのではなく、最初からカチカチに堅焼きしたパン。南イタリア、プーリア州の伝統料理だ。
プーリアといえば美味しいものの宝庫で、滅多に他の州のことを褒めない地元愛溢れるイタリア人たちも羨むほど。そんなプーリアで生まれたフリゼッラとは、ドーナツ型をした堅焼きパンを、水にくぐらせて柔らかくし、塩、オリーブオイル、完熟トマト、オレガノなどをのせて食べるというものだ。
もともとは漁師や船乗りたちが、長い航海へ持っていく保存食糧として生まれたそうだが、パンが買えない日や忙しい日、そして何より暑くて調理したくないときにも便利で美味しいと、一般家庭にも広がったと言われている。
各自が好みの柔らかさに戻して食べる
フリゼッラを食べるとき、「どれぐらい柔らかくするのか?」がプーリアの人々の間では論議の的となるという。一般的なフリゼッラは普通の小麦粉でできていて、水であっという間に柔らかくなる。一方、最近の健康志向では全粒粉のもの、グルテンフリーのものなどもあって、その場合は戻し時間が変わってくる。
どちらにせよ、戻し加減は好みの問題だから、誰か(多くの場合は家庭の主婦?)が代表して調理すると家族全員を満足させられない。だからプーリアの家庭では、各自が好みの柔らかさに戻して食べる、という流儀が定着しているらしい。テーブルに乾燥したままのフリゼッラと好みの具材、そしてボウルに入れた水を置いておく。食べるときに各自がフリゼッラを水に浸し、好きな具材をのせ、それぞれに楽しむという具合だ。
日本の手巻きパーティーにちょっと似ていなくもないけれど、ご飯を炊いたり、具材を調理したりする必要がないので、ぐっと簡単だ。
そんなフリゼッラ、今ではプーリア州を代表する料理の一つとして、レストランでも供されるとか。だがどんなにオシャレな店だろうが高級店だろうが、フリゼッラは手で食べるのが鉄則と言われる。水で柔らかくしているとはいえ、もともと硬いパンをナイフとフォークで食べようものなら、とても食べにくいし、あまり柔らかくなっていなければ、かけらが飛び散ったりすることもあるからだ。
プーリア産のフリゼッラ、日本でもイタリア食材店に行けば売られているかもしれないし、なくてもバゲットの端っこや、カンパーニュなどのハード系パンを1~2日放置して乾燥させたもの、または甘みのないラスクがあれば簡単に再現できる。

