「この頃になると、“コオロギ食の推進に政府も関与している”という陰謀論も噴出するように。『コオロギを食べると5Gで操られる』『農林水産省の補助金がコオロギの生産につぎ込まれている』といった荒唐無稽なデマも飛び交うようになりました」
さらに渡邉氏は、一連の騒動を拡大させた要因として、「インプレッション狙いの発信者」の存在を挙げる。
たしかに当時を振り返ると、ひろゆき氏が、酪農家が生乳が廃棄する状況を引き合いに、「コオロギ食べるぐらいなら牛乳飲めばいいのにね」とSNSで主張。また、堀江貴文氏が「コオロギ食に正義なんかありません」と題した動画を自身のYouTubeチャンネルでアップロードする。真意はさておき、著名人の間からも昆虫食に否定的な意見が相次いだ。
こうした影響力のある人物による発信は、昆虫食に対して“モヤッとした嫌悪感”を抱えているユーザーの反発を強める格好となった。昆虫が身近な食材として広がっていく嫌悪感に、SDGsやサステナブルを押し付けられているような感覚が重なり、反発が高まっていく。
結果、23年春頃には、前出の敷島製パンが展開していたコオロギパウダー入りの食パンが不買運動される事態に発展していく。こうして1人の大学教員が、科研費獲得のために始めたスモールビジネスは、3年ほどで社会問題までに発展していった。
設立から5年での破産へ
興味深いのは、これほど大規模な炎上にもかかわらず、グリラスとしては“食品事故やアレルギー事故を起こしていない”という点だ。
直接的な火種がなかったにもかかわらず、コオロギのネガティブなイメージに、陰謀論やSNSでの拡散が混ざり合った結果、収拾がつかなくなっていく。昆虫食に対するネガティブなイメージを持つ層が、事実関係や科学的な根拠よりも、根も葉もない批判に反応したことで、議論は事実から切り離されていった。
渡邉氏は、当時を「もはやネットリンチだった」と表現しつつ、こう振り返る。
「もっと手前の段階で、コオロギ食の安全性や取り組みの実態など、綿密にコミュニケーションを取るべきだったと反省している。
炎上が最高潮だった頃には、当社で進めていた取り組みと、ネット上の言説が乖離しすぎてなす術がなかった。もし仮に、私がデマや陰謀論を真っ向から否定したり、法的措置を取ったりしたところで、火に油を注ぐだけで逆効果になったはず。
いま思えば、リテラシーのあるインフルエンサーに事実の拡散を頼む、代理戦争のような手もあったが、当時はそこまで頭が回る状況ではなかった。人は信じたい情報しか信じないし、各々の利害でしか動かないと痛感した」

