パワハラを恐れるあまり、上司が部下に踏み込めなくなる。一見やわらかいこの態度は、「何が良くて、何がダメか」という判断基準が、組織から静かに消えることを意味します。Aさんの企画書に赤字が入らなかったのは、その典型でした。
「失敗したらつらいだろう」と、難しい仕事を上司が抱え込む。守っているつもりが、その実、若手から経験の機会そのものを奪っています。挑戦しないかぎり、人は成長しません。
全員を一律評価にし、差をつけない。角を立てないための配慮ですが、これは「頑張っても頑張らなくても同じ」というメッセージになり、まじめに努力する人間の意欲を、真っ先に削っていきます。
若手の声に「面白いね」と耳を傾けはする。けれど、現実は何も変わらない。傾聴で止まる優しさは、やがて「言っても無駄だ」という、静かな諦めに変わります。
一つひとつは、小さな善意です。けれど、積み重なれば、「ここにいても、自分は変われない」という強烈なメッセージになる。そして恐ろしいことに、このメッセージを最も敏感に受け取るのは、いちばん真面目に働き、自分の未来を本気で考えている若手なのです。
静かに進む「3段階の崩壊」
ゆるブラック化が怖いのは、業績の急落という、わかりやすい警報を鳴らさないことです。崩壊は、3つの段階を踏んで、静かに進みます。
第1段階(〜3年)では、エースから抜けていく時期です。成長意欲の高い若手ほど、早く違和感に気づき、去っていく。あとに残るのは、変化を望まず、成果意識のない社員。組織の「平均温度」が、少しずつ下がり始めます。
第2段階(3〜7年)になると、その評判が外へ漏れ出します。口コミサイトに「ぬるい会社」と書かれ、採用が難しくなる。いまや、転職検討者が最も見るのは口コミサイトです。優秀な人材が応募してこなくなり、入り口の質が落ちていきます。
第3段階(7年〜)では、挑戦する文化が完全に失われます。市場が変化しても、対応できる人材が社内に残っていない。企業は、緩やかに沈んでいきます。売り上げが一気に落ちるわけではない。だからこそ、誰も危機に気づけないのです。私はこれを、「沈黙の衰退」と呼んでいます。

