ここで強調しておきたいのは、「優しさを捨てよ」という話ではない、ということです。叱責の文化に戻したり、長時間労働を復活させたりする必要は、まったくありません。問われているのは、優しいかどうかではないのです。その優しさが「設計されているか」どうか。必要なのは、優しさに「成長」というもう一つの軸を、仕組みとして組み込むこと。気合いや人柄ではなく、構造で担保することです。具体的には、3つあります。
若手が辞めるのは、未来が見えないからです。キャリアパス、研修、役割の変化、報酬テーブル。中長期の成長像を描ける材料を、経営側が意図して用意する。「いまのままで十分」ではなく、「3年後、あなたはここまで行ける」と、言葉と仕組みで示せるかどうか。そこが分岐点になります。
評価面談を、ランクを言い渡すだけの儀式にしない。「次の半年で、何を伸ばすか」を、上司と本人で合意する場として再設計する。全員Bランクの一律運用をやめ、努力が見られたら、評価に繋がる場に変える。たったそれだけで、面談は違う意味を持ち始めます。
「失敗したらつらいだろう」と上司が抱え込むのをやめ、1〜2年単位で役割を動かす「育成のリズム」をつくる。ポイントは、リカバリーできる範囲で挑戦させることです。失敗が許される設計があってはじめて、上司は安心して仕事を手放し、若手は安心して挑戦できるようになります。
働きやすさは、「残る理由」にはならない
「働きやすい会社」を目指すこと自体は、何ひとつ間違っていません。問題は、それがいつのまにか「社員に何も求めない会社」と同義になってしまうことです。若手は、楽をしたくて辞めるのではありません。自分の未来が見えないから、辞めるのです。
残業ゼロや人間関係の良さは、入社の理由にはなっても、残り続ける理由にはならない。残り続ける理由をつくれるかどうかは、優しさを「成長の仕組み」に変えられるかにかかっています。
問われているのは、ホワイト経営か、ブラック経営か、という二択ではありません。社員が「この会社にいれば、自分は成長している」と心から思える組織を、設計できるかどうか。それだけです。


