生成AIへの投資は、本当に会社の損益に効くのか。導入企業の多くがまだ手応えを数字で説明できずにいるこの問いに、具体的な実績で答えた経営者がいる。IoTプラットフォームを運営するソラコムの玉川憲・代表取締役社長CEOだ。
同社は7月7日、年次イベント「SORACOM Discovery 2026」を開催した。基調講演で玉川氏がまず語ったのは、新製品ではなく自社の変化だった。
1年前に社内で「アフターAIの組織になる」と宣言し、大きな部門単位の組織を、事業ごとの少人数チームとAIの組み合わせに再編した。その結果、ソラコムが生み出すソースコードはほぼ100%を生成AIが書くようになり、売上高に対する販管費率は1年で6ポイント下がった。人員は減らしていない。売り上げが伸びる一方で販管費が下がったという説明だ。
基盤モデルは横並びになる
玉川氏が転機として挙げたのは、米Anthropicが2025年に投入したコーディング支援AI「Claude Code」だった。「こいつ、コードが書ける。私たちのコードが書けてしまう」。エンジニアリングを誇りにしてきた通信ベンチャーの経営者が、人がコーディングする時代の終わりを認めた瞬間だった。
議論はこう続く。AIの基盤モデルはどの企業も同じものを使えるため、いずれ横並びになる。では競争力はどこに生まれるのか。玉川氏は、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏が6月に提唱した「トークン資本」という概念を引いた。AIとのやり取りを通じて企業に蓄積される、AIを使いこなす能力そのものを資本と見なす考え方だ。人がAIに仕事を教え、人は監督と例外処理に回り、賢くなったAIが今度は人の判断を速くする。この循環を回し続けた企業にだけ他社が模倣しにくい資産が積み上がる、というのが玉川氏の見立てだ。
ここまでなら、AI時代の経営論としてどの会社でも語れる。ソラコムに固有なのは、この議論を製品戦略に落とした先にある。玉川氏は、トークン資本を蓄積する出発点はデータをためることであり、多くの企業にとって自社にしかないデータは工場や車両、設備といった現場のデータだと指摘した。そして現場のデータを集める通信は、同社が創業以来続けてきた祖業そのものだ。

