デモでは、現場の作業員が制御盤の異常を電話でAIに相談し、「電圧計は24ボルト、温度は26.2度です」というやり取りの末にバッテリー交換までたどり着いた。深夜や早朝でも応答するAIが、人手不足の現場でベテランの相談相手の代わりを務める想定だ。
SIMを遠隔で書き換える技術が土台にある
こうしたAIサービスの土台には、通信をソフトウェアとして扱う同社の技術がある。ソラコムは通信網の心臓部にあたるコアネットワークを、専用設備ではなくクラウド上のソフトウェアとして自社開発し、世界200以上の国と550の通信キャリアにつなげてきた。今回、その延長にある技術も商用化した。プロファイル管理基盤「SORACOM Connectivity Hypervisor」と、新しいeSIM規格「SGP.32」に対応したIoT向けSIMだ。
自動車や産業機器は10年以上使われるが、通信の前提は10年もたない。旧世代の携帯電話網が停波すれば組み込まれた通信機能は使えなくなり、国によっては海外SIMのローミングでの長期利用を規制する法律もある。
SGP.32は、遠隔地にある機器のSIMの中身(通信プロファイル)を、管理者がリモートで追加・切り替えできる国際規格だ。スマートフォンでeSIMの通信会社を乗り換えるあの操作を、世界中に散らばった機械に対して管理者側から実行できるようにしたものと考えればいい。
製品を回収せずに通信会社を替えられるため、同社によれば、長期稼働する製品ではSGP.32対応が自動車分野などの調達で必須要件になりつつある。対応SIMはKDDIと共同開発し、7月7日から商用提供を始めた。
さらにソラコムは、2015年のサービス開始以来運用してきたコアネットワークのソフトウェアそのものを、国内外の通信事業者へ販売する事業も発表した。設備を持つ通信事業者に、ベンチャーが心臓部のソフトウェアを供給することになる。丸紅I-DIGIOグループとの合弁会社であるミソラコネクトでは、加入者管理の機能をソラコム製に移行する商用利用がすでに始まっている。
玉川氏はソラコムの戦略を、顧客がトークン資本を蓄積するための「安全な器」を提供することだと説明した。生成AIは損益に効くのかという冒頭の問いへの答えは、講演全体を通すとこうまとめられる。効かせたのはAIそのものではなく、AIに渡す自社のデータと、人が監督役に回る業務の作り替えだった。
基盤モデルは誰でも使える。差がつくのは、その会社にしかないデータをAIに届けられるかどうかだ。社内文書も固有のデータには違いないが、差がつきやすいのは、工場や車両、設備から途切れず届く現場のデータだ。ここは競合が後から集め直せない。AI投資の費用対効果に悩む経営者がまず取り組むべきは、ツール選びではなく、自社にしかないデータの棚卸しだ。

