通常、事故物件を扱う不動産会社は、過去の事件を隠そうとする。しかし、亀澤は真逆の提案をした。
「この物件で何があったか、隠しません。むしろ、表に出します」
事件があったことを公表する。その上で再生させる。それでよければ買い取る。
遺族は、その条件を受け入れた。契約を結ぶため、亀澤は母親と娘に会った。母親には、余命のことは伝えられていなかった。娘からは「絶対に言わないでほしい」と頼まれていた。
意思の疎通はできる。しかし、身体は弱っていた。残された時間がもうわずかなことは、亀澤にもわかった。
娘は、父が残したほかの不動産も処分していた。被害者の男性は複数の物件を所有して家賃収入を得ていたが、物件を借りていた人たちに、ただ同然の金額で譲ったという。
「父が生前、いろんな人に迷惑をかけたので。せめてもの罪滅ぼしです」
父の死を悲しまない娘が、父のあと始末に追われていた。
もう一つの死
物件を買い取った亀澤は、リノベーションに取りかかった。外観も、内装も、間取りもすべてを変える。かつての面影を残さない。
工事中、近隣住民から何度も声をかけられた。
「こんなところ工事してたら、呪われるぞ」
ある日、近所の老人から、思いがけない話を聞いた。
「ここ、首吊りもあったんやで。わし、第一発見者やってん」
亀澤は知らなかった。
強盗殺人があったことは把握して購入したが、それ以前にも死者が出ていたとは。

