男性は、かつて貸金業を営んでいた。
近隣住民や娘の話によれば、その取り立ては相当に厳しいものだったという。法外な金利。1階で経営していた居酒屋で客に金を使わせては、また貸しつける。雪だるま式に借金をふくらませていく。返済できなくなった人々への対応は、通常の業者のそれをはるかに超えていた、と複数の関係者が証言している。
特殊清掃の作業は、血痕の除去から始まった。27回、執拗(しつよう)に殴打されて飛び散った血は、部屋のあらゆる場所に染みついていた。一つひとつ、丁寧に除去していく。作業が完了し、部屋はきれいになった。しかし、問題はここからだった。
「強盗殺人の現場」の物件、買い取りの条件とは?
この物件をどうするか。
遺族は、物件を売却したいと考えていた。しかし、広く報道された、強盗殺人事件の現場だ。インターネットで検索すれば、すぐに情報―― いわゆる「デジタルタトゥー」が出てくる。
物件の名義は母親。娘は、母が生きているうちに、すべてを片づけたかった。母が亡くなってから手続きをするのでは、さらに複雑になる。
母の余命宣告はわずか。一刻も早く安心させたかった。
しかし、買い手は見つからなかった。
事故物件を専門に扱う不動産会社を含め、4社に見積もりを依頼した。しかし、すべて断られた。物件の知名度が高すぎる。つまり、デジタルタトゥーが残り過ぎているのが原因だった。
手を挙げたのは関西クリーンサービス代表の亀澤範行だった。
「条件つきで、買い取ります」
その条件とは——。

