一般的に個人経営のパン屋では、職人ひとりが1日に作るパンは300個前後が目安とされる。しかし「やおき」では、ふたりで1日1000個以上を手作りして販売までやっているというから驚きだ。
一体、どうやっているのか。
一徳さんは、前日の夜7時頃から仕込みを始め、夜通しパンを焼き続ける。朝5時の開店後はシュークリームとエクレアの製造に取りかかり、全て作り終えるのは昼2時頃だ。
一方、ユリ子さんも深夜から総菜パンの具材を仕込む。コロッケやメンチカツを揚げ、ソーセージを焼き、タマゴサラダなどの調理をこなし、それらを焼き上がったパンに挟み、一つひとつ袋詰めする。朝5時の開店後は店頭で接客しながら、お客さんが途切れると奥の工房で作業を続け、できあがった商品を次々と店頭へ並べていく。
長年、定休は週1日だけで、ふたりの睡眠時間はわずか3〜4時間だった。今年5月から体を労わり、火・木・土曜の週3日営業に絞ったが、徹夜で18時間以上働き続ける過酷さは変わらない。それでもユリ子さんは「全然疲れんとですよ」とパワフルだ。
取材に伺った木曜日、都心から離れたのどかな住宅街にもかかわらず、午前10時すぎには350個のパンがほぼ売り切れ。シュークリームとエクレアも順次ショーケースに並ぶが、店にはお客さんが絶えず、次々に売れていた。
「日によって違いますが、パンは午前中になくなることも。シュークリームとエクレアは10時過ぎから店頭に出し始め、夕方までに全て売れることが多い」と一徳さんは説明する。
10円の値上げでも「申し訳ない…」
1995年の移転以降、値上げはわずか2回だけ。シュークリームとエクレアも20円しか上げていない。
「10円上げるだけでも20%の値上げになってしまい、お客さんに申し訳なくて……。自宅の1階でやっていますし、うちの子たちはもう独立したので、何とかやっていけますよ」と一徳さんは大らかに笑う。

