シュークリーム50円、エクレア60円、ハンバーガー110円……。物価高騰が続く今もなお、思わず値札を見返してしまうほど良心的な価格で、手作りのパンと洋菓子を朝5時から販売する店がある。
福岡市東区箱崎の住宅街にひっそり佇む「やおき」。創業から56年、今は地域で“おばあちゃん”と親しまれる飯田ユリ子さん85歳と、義理の息子・篠崎一徳さん68歳のふたりで営んでいる。
時代の流れとともに個人商店が次々と姿を消していく中、なぜ同店は驚くほどの低価格を守り続けられるのか。国内はもちろん海外からもお客さんが訪れる、小さな名店の舞台裏に迫った。
睡眠時間は3〜4時間、徹夜で18時間働く
福岡市の中心部である博多や天神から、電車やバスで20分ほど。かつて九州大学のキャンパスがあり、学生街としてにぎわった箱崎の狭い路地裏に、やおきはある。
創業は1970年。ユリ子さんと夫が、現在の店から歩いて5分ほどの場所で開業した。店名の「やおき」は、ことわざの「七転び八起き」から。「どんな困難にぶつかっても、何度でも立ち上がって前を向くという思いを込めたんですよ」とユリ子さんは振り返る。
1995年、道路拡張に伴って現在の場所へ。九大生向けに下宿を営んでいた建物の1階を改装し、パン屋にした。
実は移転の際、店は存続の危機に立たされた、と一徳さんは打ち明ける。
「先代が『移転は大変やけん、ほかに誰もやらんなら店を閉めるか』と漏らしたんです。息子はやらないということで、娘婿である私に声がかかりました。当時、私は運送業が忙しく家を空けがちでしたが、重い障害のある長男に付き添いたいという思いもあって。思い切って仕事をやめ、先代のもとでパンと洋菓子作りを始めました」
当時、シュークリーム30円、エクレア40円(やおきではエクレアをエクレヤと呼ぶ)、パンは12種類。職人気質だった先代のやり方を見て学んだ一徳さんは、先代が交通事故で突然他界した後、ユリ子さんとふたりで店を切り盛りしてきた。お客さんの要望に応えるうち、パンは25種類を超えた。

