客足が落ち着いたタイミングで、ユリ子さんが「うれしいことがあってね」と店の奥へ。大切そうに抱えて持ってきたのは、カナダに住む女性から届いた手紙と似顔絵だった。英語を日本語に翻訳したという手紙には、こう書かれている。
「YouTubeで貴店のストーリーとパン屋さんを知り、その長年の献身に深く感動いたしました。(中略)私は日本出身ではありませんが、貴店と地域のために注がれた愛情、情熱、努力、献身を感じることができます。感謝の気持ちを込めてこの作品を作りました」
「海を越えて思いが届いたんですね」というと、ユリ子さんは照れたように微笑んだ。
85歳と68歳、ふたりで守り続けてきたもの
店名の由来は「七転び八起き」。道路拡張による移転、先代の突然の逝去、障害のある子との別れ、原材料の高騰、一徳さんの病気……幾度もの困難を乗り越えて歩んできた56年は、まさにその言葉を体現している。
ユリ子さんと一徳さんおすすめのパンと洋菓子を買って帰った。
「ピリ辛カレー」「肉じゃがコロッケ」「クリームチーズとブルーベリーのメロンパン」などパン6種に、シュークリーム3個を加えても870円という破格ぶり。どれもふんわりとした生地に具材やクリームがたっぷり詰まり、手作りならではのやさしい味わいが心まで満たしてくれる。
効率化と値上げが当たり前になった時代に、85歳と68歳のふたりで1日1000個以上のパンと洋菓子を丁寧に手作りし、朝5時から店を開ける。やおきが半世紀以上守り続けてきたのは、安さだけではない。毎日手を抜かず、お客さんに喜んでもらいたいという誠実な商売の姿勢そのものだ。地域に、そして世界に愛されるこの小さな名店は、今日も変わらぬ笑顔とおいしさで人々を迎えている。

