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数々の受賞を重ねても、岸井ゆきのの言葉はどこまでも静かだった。
日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞の先にあったのは、達成感ではなく、次の現場とどう向き合うかという問いだった。映画を届けたい相手も、“みんな”ではなく“目の前の一人”だという。
派手な言葉で自分を大きく見せることなく、見過ごしていた感情や、置き去りにしていた自分にそっと触れ直すような作品を選び続ける。そんな岸井ゆきのという俳優の輪郭をたどった。
受賞の先にあった、静かなプレッシャー
「喜びよりも、重荷のほうが大きかったかもしれません」
そう言った岸井ゆきのの声は、受賞者のそれとしては驚くほど静かだった。
映画『ケイコ 目を澄ませて』(2022年公開)で第46回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞など、その年の映画賞を次々と手にした。
派手に感情を爆発させるより、視線や沈黙の奥にある痛みをにじませる。岸井は、そんな静かな芝居で高く評価されてきた俳優だ。けれど本人は、あの受賞を“到達点”のようには受け取っていない。
「評価されるためにやっているわけではないので」と前置きして、岸井はこう続ける。
「もちろん、いいお芝居をしたいし、役に没頭していい映画づくりをしたいという気持ちはずっとあります。そのうえで、その映画をたくさんの人に届けたいとも思っているので、受賞したことで『じゃあ次はどんな映画に携わればいいんだろう』と考えるようにはなりました」

