賞を取ったから、自分が変わったわけではない。
むしろ増えたのは、誇らしさよりプレッシャーだったという。
しかし、その重圧に押しつぶされることもない。
「やっぱり、私はこれからもいい映画づくりに携わっていきたい。その気持ちは変わっていないと思います」
受賞の先にあったのは、達成感ではなく、次の現場へどう向き合うかという静かな問いだった。
多様化が進む時代に、俳優は何を手渡せるのか
では、岸井ゆきのは、いまの時代に俳優という仕事が“何を手渡せる”と考えているのか。返ってきたのは、静かな答えだった。
「個人的には、『社会』とか『世界』とか『みんな』に向けて、という感覚はあまりないんです。自分が出ている映画を観た人に、忘れていた自分や、心の奥にあった感情を少し掘り起こしてもらえたらいいなと思っています」
映画を観ることについて、岸井は「映画とおしゃべりしに行くような感覚」と表現する。作品に触れながら、自分の記憶や感情と静かに対話するような時間。その感覚は、自身が出演する作品への向き合い方にもつながっている。
「結果としてそれがたくさんの人に広がったらうれしいけれど、届けたい相手は、あくまでも“そこにいるあなた”なんですよね。だから、『みんな観てね』というよりは、『一人ひとりに届いてほしい』という思いで、いつも向き合っています」

